まるで“抱き合い心中”を見ているようだった。
 これを采配ミスと言わずして、いったい何を采配ミスと呼べばいいのか。
 3月30日の中日戦で広島のマーティ・ブラウン監督が披露したのは、敵地のファンがどよめきをあげるほど不可解なものだった。

 2点差を追う6回表、広島は2死一、二塁という絶好のチャンスをつかんだ。次打者は先発の長谷川昌幸。ここまで2失点とまずまずの投球を見せていた。
 だが、イニングと点差を考えれば、誰がどう見ても代打の場面である。
 中日の先発は左の小笠原孝だったが、この回から右の吉見一紀がマウンドに上がっていた。

 ネクストバッターズサークルでは左の森笠繁がバットを振っていた。ベンチには“2000本男”の前田智徳もいる。彼は前日、今季初ホームランを放っていた。
 ところがブラウンは長谷川をそのまま打席に送った。1打席目、2打席目に続き、この打席もあえなく三振。次のイニング、長谷川は中村紀洋に2ランを浴び、万事休した。

 私は頭から続投を否定しているわけではない。リリーフ投手に信頼が置けない場合、先発を引っ張る場合は確かにある。
 しかし、それなら長谷川の前の打者に代打を送る意味がない。嶋重宣が期待に応えてチャンスを拡大した時点で、長谷川には代打だろう。

 だが試合後のブラウンのコメントは腑に落ちないものだった。
「長谷川は悪くなかった。初回はエラーによる1点だったし、あとは森野将彦への失投によるソロホームランだけ。だから何とか頑張ってもらいたかった。
 このあと(中日には)2点取られて、この続投は生かされなかったけど、あそこを抑えていれば、あとで2ランが出て同点だったかもしれない」

 あのねぇ、と言いたい。それじゃファンの願望と同じじゃないか。もっと現実を見据えた指揮を執ってもらいたい。
 続投の長谷川も面くらったのではないか。自分の代打がタイムリーかホームランを打てば、自らの負けは消える。場合によっては、勝ち投手ということもありえる。あそこで打席に立つ準備はできていなかったように思う。

 昨季は5勝5敗と凡庸な成績に終わったが、防御率は2.95と内容的には悪くなかった。それまでの一発病は陰をひそめ、辛抱強く投げていた。昨季、カープで最も成長したピッチャーと言っても過言ではあるまい。
 それだけにブラウンは下手な温情をかけて、チーム内に禍根を残すべきではなかった。

 4月3日現在、広島は1勝4敗1分。巨人とともに開幕から長いトンネルの中にいる。
 出口のないトンネルはないが、指揮官の“迷采配”が続くようでは一度抜けてもまた次のトンネルが待っているような気がする。まるで新大阪から広島に向かう山陽新幹線のように。

<この原稿は2008年4月20日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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