プロフィギュアスケーター・羽生結弦が座長を務める「notte stellata2024」の初日が8日、宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ(グランディ21)で行なわれた。スペシャルゲストとして元宝塚歌劇団月組トップスターで俳優の大地真央が出演した。公演は整氷及び休憩(20分)をはさんだ2部構成。1部の最後には羽生と大地が「Carmina Burana」でコラボレーションした。2部の8番目には大地が「Luck be a lady」と「Anything goes」を男性役と女性役を演じ分けながら歌い上げ、9番目に羽生が「Danny Boy」の美しいピアノの音色に合わせて堂々としたイナバウアーなどを披露し、6100人を沸かせた。

 

 大地とコラボレーションした「Carmina Burana」で、羽生は自らを少年に見立てた。パステルカラーの衣装に身を包んだ羽生は、楽しそうに伸び伸びとスケートを楽しむ。「まだ世界をちゃんと知らない無垢な少年。幸せを感じながら生きていて、冒険したり、草花に触れてみたりする無垢な少年」と羽生は説明した。

 

 軽やかなステップ、スピンを披露し、3アクセルを決めなるなど、少年はご機嫌だった。

 

 ところが、である。悪魔を連想させるような衣装に身を包んだ大地がリンク横の舞台に立つ。すると、あれほど楽しそうに振舞っていた少年は恐怖を感じ、舞台から遠くに逃げようとする。

「少年が成長していき運命の女神が現れて、運命にとらわれていく。自分が自由に、無垢に動くだけじゃなくて運命の歯車に左右されていく。自由には動けなくなっていく」と羽生。悪魔のように見えた大地は運命を具現化したものだったのだろう。運命、もしくは運命の女神が万人にとって必ずしもポジティブな存在ではないと、類まれな表現力を持つふたりが観る者たちに教えてくれた。

 

 大地の動きに引っ張られるように、少年は舞台の方向に引きずり込まれ、“見えない檻”に閉じこめられてしまった。檻の中で、懸命にもがき、暴れまわるものの少年は脱出できない。少年は、苦悩を抱えながらも、暴れることを止めた。

 

 すると、舞台で悪魔のような衣装を着ていた大地は、美しい白いドレス姿に早変わり。少年も見えない檻から脱出に成功し、ハッピーエンドを迎えた。

 

 この流れを羽生は公演終わりの囲み取材で、こう説明した。

「最終的には運命をすべて受け入れて、運命と対峙しながら、自分の意思で進んでいくんだというストーリーです。僕はこのストーリーの中に震災だったり、津波だったり、能登半島地震もそうです。天災など人間の力ではどうしようもない苦しみを感じたとしても、そこに抗いながらも受け入れて進んでいくんだ、というメッセージを込めながら滑っていました」

 

 抗いながらも、受け入れる――。東日本大震災の被災者でもあり、五輪を2連覇して迎えた北京冬季五輪では氷上のスポットにブレードがはまり、惜しくも4位に終わった。プロに転向し、新たなチャレンジを続ける羽生が言うからこそ、深みがあるのではないか。

 

 そして、会場の外には、防災の大切さを訴えるパネルが出ていたことも、付け加えておきたい。

 

(文/大木雄貴)