4月とは思えない寒さの日曜日、1ヵ月ぶりに大塚監督が練習に来ました。
 最近の試合で目立つ外野のミスを何とかして欲しいという安藤コーチの申し出もあり、監督はフライの追い方を基礎から丁寧に外野手に教えはじめました。
(写真:監督の外野指導)
 監督から2メートルほどの位置に選手を構えさせ、フライを想定したボールを、頭上を少し越える距離に投げます。監督の手からボールが離れると同時に半身になってボールを追い、キャッチする練習です。

 この練習でボールの追い方の基本を確認し、次は外野の距離まで離れて実際にノックを受けることになりました。
「広瀬、お前仮想ピッチャーやれ」
「わかりました」
「いいかー、今から広瀬がピッチャーやる。ふりかぶったら構えて、俺が打ったら打球判断して動けよー」
 今にも雨が降り出しそうな雲を吹き飛ばすくらいの大きな声が響き、ノックがはじまりました。

「ピッチャーが振りかぶって投げる間に準備して、バットに当たった瞬間に打球を一瞬確認してから動け。一歩目が遅くても十分追いつける。一瞬打球を判断する時間をつくれ」
 打球を見る時間を設けることに、はじめ選手は戸惑っていたようでしたが、先ほどの基本練習が良かったと見えて、選手がボールを追うたびに「オッケー」「できるやんかー」という監督の満足そうな声が響きます。

 仮想ピッチャー役を終えた私は、別の練習をはじめた外野陣を離れ、ベンチへ行きました。
「外野の練習、長そうやな」
 内野ノックを終えたコーチが、野球カタログをぺらぺらとめくりながら退屈そうに座っています。

 しばらくすると、カタログを見る視線の先に止まったのでしょうか、きちんとそろえられているサンダルを指さし、「これ、監督のサンダル?」と聞きました。
「そうだと思いますよ」
 するとおもむろに右手でベンチ内の砂をかき集めはじめました。サラサラの砂をかかとの重みで丸く窪んだ部分へ置いていきます。あっという間に両サンダルのかかとに小さな砂山ができました。
「子どもの暇つぶしみたい……」。笑いをこらえながらしばらくベンチでコーチと話をしていると、監督が引き上げてきました。

「バッティングやろうか」と指示を出す監督の横を「トイレトイレ」と言いながらコーチがベンチから出て行きます。
 ふと見ると、バッティング練習がはじまり誰もいなくなったベンチで、監督がある一点を見つめています。
「なんやこれ」。ぶつぶつ言いながらサンダルの砂をはらう監督。
「絶対アイツや……」

 しばらくしてコーチがベンチに戻ってきました。
「なんや、あのサンダル」
「へ?」。思い切りとぼけるコーチ。完全にばれてますよ。

 久しぶりの練習に来た監督は選手に伝えたいことがたくさんある様子で、暇をもてあましたコーチにいたずらをされるほど長い時間、選手にいろいろなことを伝えてくれました。
 5、6月は試合が続きます。教えてもらったことを自分のものにして、少ない練習時間を充実したものにしていきたいと思います。

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広瀬明佳(ひろせ・さやか)
福島県郡山市出身。母がソフトボール、兄が野球をやっていたことから中学・高校時代ソフトボール部に所属。大学時代軟式野球サークル。前職での仕事をきっかけに初めて硬式野球の道へ。現在、埼玉県内の硬式野球クラブチームに所属。チームの紅一点として奮闘中!

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