女子サッカーの2024プレナスなでしこリーグが3月16日に開幕する。同11日、都内で記者会見を行い、昨季優勝のオルカ鴨川FCの辛島啓珠監督、現役時代なでしこジャパン(女子サッカー日本代表)で活躍したスペランツァ大阪の大野忍監督、朝日インテック・ラブリッジ名古屋のMF三浦桃ら1部リーグ12チームの監督、選手が今季の意気込みなどを語った。

 

 ディフェンディングチャンピオンの鴨川は、辛島監督新体制で連覇を狙う。「クラブ創設10年で初優勝。主力のFWが退団しましたが、有望な若手も新加入し、既存の選手との融合で攻守にバランスの取れたサッカーで優勝を目指したい」と辛島監督。昨季MVPに輝いたFW鈴木陽(WEリーグの日テレ・東京ヴェルディベレーザに移籍)ら主力が抜けた。キャプテンのMF高塚綾音はこう意気込む。
「チームの半分が入れ替わり、新しいチームとしてスタートしました。今季も昨季同様、最高の瞬間を地域の方々と共に味わえるようにチーム一丸となって戦っていきたいと思います」

 

 ヘッドコーチから昇格した大阪の大野新監督はストライカーらしく「結果にこだわり、勝てるチームを目指して頑張りたいです。攻守において攻撃的にいきたい」と抱負を述べた。今季1部は辛島監督、大野監督のほか12チーム中5チームの指揮官が代わった。新たなスタイルを模索するチームもあれば、強みをブラッシュアップし新シーズンを迎えるチームもあるだろう。各チームがどのような戦いを見せるかも楽しみだ。1部は全132試合をYouTubeで実況付きでライブ配信予定となっている。

 

 今季の注目選手には、地元出身の2人のキャプテンを挙げたい。1人はWEリーグのちふれASエルフェン埼玉から昨年夏に復帰した名古屋の三浦。左利きのテクニカルな司令塔だ。日体体育大卒業後、NGUラブリッジ名古屋(現・名古屋)で3シーズンプレーし、キャプテンも務めた。21年に一度チームを離れたが、「地元愛知を盛り上げ、地元チームにプレーで還元したい」と愛知に戻ってきた。昨季は復帰後、7試合1得点。今季の目標に「より攻撃的な部分を出していきたい。シュートやペナルティーエリアに侵入する回数を増やしたい。点の取れるボランチは貴重。そこで違いを見せていきたい」と得点に絡む回数を増やすことを掲げている。これまでトップ下、サイドハーフ、センターバックも経験してきたが、中盤の底から長短のパスをさばけるのが魅力だ。本人も「自分が一番輝ける場所はボランチ」と言う。

 

 昨年、三浦は結婚をした。女子スポーツにおいて結婚を機にキャリアを閉ざしてしまうケースも少なくない。だが近年のWEリーグなどで結婚・出産を経て現役を続ける選手もいる。「過去の偉大な先輩たちは結婚=サッカーを辞めるのが当たり前だった時期もあった。それが最近は結婚=サッカーをやめるという選択ではなくなった。(夫は)関東で暮らしているため、愛知にいる私とは遠距離になってしまいますが、それでも私がサッカーをやりたいという気持ちを尊重してくれている」と感謝の思いを口にした。

 

 6月には、チームがネーミングライツパートナー契約を結ぶ朝日インテックの支援により、愛知県瀬戸市に専用練習グラウンドが完成する。「地元をより元気に明るく。地域の皆さんと一緒に盛り上がっていければと思います」と三浦。将来的なWEリーグ参入を目指すチームにとって、埼玉でWEリーグを経験している彼女の知見を生かす機会もあるだろう。
「ひとつひとつ課題をクリアしていくことが大事。選手として何ができるかが問われ、私はそこに貢献していかなければいけないと思っています」

 

 もう1人はバニーズ群馬FCホワイトスターのFW大矢歩だ。チームのユース出身である彼女が、愛媛FCレディースから地元に帰ってきたのは2シーズン前である。「サッカー選手として、地元群馬にできることがあるんじゃないか、と思い、移籍を決断しました」。関東いすゞ自動車で働きながら、地元でサッカーをする生活は今季で3季目を迎える。

 

 なでしこジャパンとして9試合に出場した経歴を持つ大矢。愛媛時代を合わせれば、なでしこリーグ11度目の開幕だ。今季は中学生以来のキャプテンを任された。「チームを引っ張っていく。個人もチーム全体もレベルアップしていきたい」。時にはチームメイトに叱咤激励も必要なってくるのか、と問うと「そこよりもプレーで身体を張ったり、大事な場面で決めたり。そういう部分を一昨年、去年より見せていきたい」と答えた。それが彼女なりのリーダーシップ。「チームが苦しい時に何ができるか。戦っていく中で自分自身も成長できたらと思っています」と続けた。

 

 個人の数字的目標に「2ケタ得点」を掲げるが前線でプレーする機会は、それほど多くないかもしれない。正確なロングキックが持ち味で、昨季はサイドハーフ、トップ下と中盤での起用が例年以上に増えた。今季も似たような使われ方をする可能性は十分にあり、大矢自身はボランチでの起用にも備えている。「組み立ての部分でいかに関われるか。また守備の部分でも」。持ち前のキック力、当たり負けしないフィジカルは、中盤の底でも十分に生かすことできるだろう。清水清志監督が彼女をどのポジションで起用するかも見どころのひとつである。

 

 群馬もWEリーグ入りを目指すチームだ。だが名古屋同様にクリアしなければいけない課題も少なくない。大矢は「まずはバニーズを知ってもらうことを今季、例年以上にやっていければと思っています」と前を向いた。

 

 1989年に創設されたリーグは、なでしこジャパンに多くの選手を輩出してきた。2022年、日本女子プロサッカーリーグのWEリーグが誕生して以降、トップディビジョンのリーグではなくなったものの、日本の女子サッカー選手たちが輝ける場所として息づいている。WEリーグのチェアも務める髙田春奈理事長は「なでしこリーグの歴史イコール日本女子サッカーの歴史。なでしこジャパンの強さにも、なでしこリーグの存在が繋がっていると改めて感じました」と語る。
「現在のWEリーグでもなでしこリーグで活躍した選手たちが活躍しています。地域の身近な存在として、自分たちの地域を盛り上げる女子サッカー選手がいる。なでしこリーグのクラブが日本中にあるということは、女子サッカーの発展において重要なことだと思っています」

 WEリーグとなでしこリーグ(1部と2部)の計36チームは、21都府県にまたがっている。47都道府県制覇とまではいかないまでも女子サッカーが全国的に広がっている証左とも言えよう。

 

 髙田理事長は、WEとなでしこ両リーグの連携を深めていくことを誓った。
「地域で輝いていく、地域の皆さんと一緒にサッカーで幸せになっていくということを、なでしこリーグは明確に謳っています。そこが魅力だと思っています。実際に中を見ていると、両リーグとも地域をすごく大事にしているし、女性の力を信じている点で共通している。女子サッカー全体で一体となる流れをつくっていくことが、むしろ大事ではないか、と最近は感じています。互いのリーグを知り、一緒に手を合わせていこうという流れをつくることを今シーズンは意識しています」

 

 WEとなでしこ、地域と企業。競争し、共創していく。

 

(文・写真/杉浦泰介)