「NTTジャパン ラグビー リーグワン2023-24」ディビジョン1第10節が15日に行われ、7位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイが5位の横浜キヤノンイーグルスを29-26で下した。スピアーズは5勝5敗の勝ち点26で暫定6位浮上。敗れたイーグルスも7点差以内の敗戦によるボーナスポイント1を獲得、6勝4敗で勝ち点29とした。
負けなかったのは王者の意地ではない。勝つことをノーサイドまで信じ抜いていたからか。スピアーズがプレーオフ進出に望みを繋ぐ1勝を挙げた。
「65分まではウチが支配していた。これでひっくり返されるのがラグビー。最後まで勝ち切れる強さを準備したい」
試合後、イーグルスの沢木敬介監督が振り返ったように、スピアーズからすればほぼ負けゲームという展開だった。
スピアーズのフラン・ルディケHCは「クボタに来てから本当に一番の大逆転の試合でした」と振り返り、こう続けた。
「選手たちには感謝しています。みんなが信じる力を見せてくれた。プロセス、やり切るところを。前半はペナルティで自陣にくぎ付けになったが、後半はレッドカードもありましたが、選手たちが地に足をつけてしっかりゲームをコントロールしてくれた結果です」
試合前の時点でスピアーズは勝ち点22で7位。プレーオフ進出圏内の4位コベルコ神戸スティーラーズとは勝ち点で7差もあり、この試合を落とすと赤に近い黄色信号が灯る。一方の勝ち点28の5位イーグルスにとっても先に勝ち点を積み上げ、スティラーズらにプレッシャーをかけたいところだった。
2連敗中のスピアーズ、2連勝中のイーグルス。対照的に試合を迎えた両チームの現状がつぶさに表れた。FB島田悠平のPGで先制したスピアーズだったが、テンポ良くパスを回すイーグルスに攻勢を許す。10分、SO田村優、FB小倉順平と繋ぎ、最後はWTB竹澤正祥が大外から勝負を仕掛け、トライを奪った。
20分にHOスカルク・エラスマスのトライで逆転したものの、スピアーズの劣勢は続いた。33分、田村にディフェンスラインの裏のスペースを狙われ、ショートパント。弾んだボールをチェイスしたCTBローハン・ヤンセ・ファンレンズバーグにゴールポスト脇に飛び込まれた。
37分にはNo.8ファウルア・マキシが危険なタックルにより川原佑レフリーからイエローカードを提示された。川原レフリーは今季より試験的導入のオフ・フィールド・レビュー(シンビンの間にTMOによる検証で10分間退場、20分間退場、退場を判断する)を実施した。
最低10分間の数的不利を余儀なくされたスピアーズ。前半終了間際と後半開始早々にWTBヴィリアメ・タカヤワにインゴール右隅にダイビングトライを許し、スコアは8−26と突き放された。結局、マキシは20分間レッド(カード掲示から20分後にリザーブと交代)にアップグレード。劣勢の時間は続いた。
ここでスピアーズは耐え、逆にイーグルスがトドメを刺せなかったことが後に響くことになる。15人対15人に戻った24分、CTB立川理道のパスを受けたSO岸岡智樹が抜け出した。岸岡のトライと島田のゴールで点差を詰めると、ここから岸岡が覚醒したかのように冴え渡る。
34分、ハーフウェイライン手前のラックからボールを受け取ると、敵陣22mライン内に蹴り出す。ワンバウンド、ツーバウンドライン割ると「50:22」(自陣から蹴ったボールがバウンドしてタッチラインを割ると、蹴ったチーム側のマイボールラインアウト)でチャンスメイク。ラインアウトモールでイーグルスにプレッシャーをかける。たまらずイーグルスは反則を連発。FLコーバス・ファンダイクがイエローカードに追い込まれた。
今度は数的有利となったスピアーズは畳み掛ける。ラインアウトモールから途中出場のHO江良颯がトライ。島田がコンバージョンキックを決め、残り約3分で4点差に迫った。39分、岸岡がショートパントを自らキャッチし、ビッグゲイン。そこからSH藤原忍、島田、江良と繋ぎ、大外のWTB根塚洸雅がボールを受けた。「2フェーズ前のアドバンテージを受けた時点で、岸岡さんを呼んでいた。颯ともアイコンタクトできていた」と根塚。要求したボールをインゴール右隅に飛び込んで置いた。
殊勲のトライを挙げた根塚は言う。「ひとつ前のトライで島田さんが決めていたのが大きかった。もし決まっていなかったらトライでも1点差。キックが入るように少しでも内(側)に持って行っていた。トライで逆転できる点差だったので安心して外側でトライを取れました」。正確なプレースキックで着実に加点した島田は大逆転の立役者の1人だ。その男がコンバージョンキックをセットし、蹴る前にホーンが鳴った。島田がキックを成功し、29-26で試合を締め括った。
18点差からの大逆転。土壇場で踏みとどまったスピアーズ司令塔の岸岡に試合中のマインドを聞いた。
「後半20分で18点差でした。残りの20分間で最低3回はトライをしなければ勝てない。逆に相手に3点を取られても厳しい。逆算していくとできるプレーは限られてくる。普段ならいくつもの選択肢の中でプレーを選びますが、そこを絞って絞って、選んだものを精度高めていくことにフォーカスできた」
ラスト3分はボールを繋ぎ、アタックを仕掛けた。「ハルさん(立川理道)とも話して、もう行こうと。負けたら後がないということもありました。自分たちが持っているものを全部出し切ろう、と割り切れたことが良かったのかなと思います」。割り切りが功を奏した典型と言っていいかもしれない。
仕留めきれなかったイーグルスは痛い敗戦だ。沢木監督は後半ペナルティーを獲得した際、ショットを選択せずモールを組んだことについて「あの状況でペナルティーをもらったらボーナスポイントを狙うのは、普通の判断で選手たちはすごくいい判断をしたと思う」と語った。
「今日の敗因は3本くらいあったゴール前のラインアウトを確保できなかったこと。1本でも確保できれば勝てたと思う。我々がそういうプレッシャーがかかった状況を、トレーニングできなかったのはオレの責任」
これでプレーオフ争いはさらに混戦となった。暫定ではあるものの4位スティーラーズとの差をスピアーズが4、イーグルスが1詰めた。昨季の優勝、3位チームにとって後半戦負けられない試合が続く。
(文・写真/杉浦泰介)