これ以上の適任者はいない。ソウルでパドレスとドジャースが対戦するMLBの開幕戦。始球式のマウンドには、かつて両チームに在籍し、アジア出身投手としてはMLB最多となる通算124勝をあげたパク・チャンホ(朴賛浩)が上がる。

 

 MLBにおける、日本人選手の実質的なパイオニアが野茂英雄なら、韓国人のパイオニアは、名実ともにパクだ。

 

 ドジャースと契約したのは野茂が海を渡る前年の1994年。ボールは速いが制球に難があり、粗削りの印象が拭えなかった。95年にドジャースタジアムのロッカールームで野茂から紹介された。その際、野茂が口にした「チャンホはいずれ出てきますよ。(素質的には)スゴイものを持っていますから」との言葉が忘れられない。

 

 物静かな青年だった。5歳年上の野茂を「尊敬できる先輩」と呼び、真剣な眼差しで続けた。「野茂さんは、日本の野球少年に夢を与えている。僕も早くそうなりたい」

 

 97年にブレークし、01年まで5年連続で2ケタ勝利をマークした。01年には韓国人選手として初めてオールスターゲームに選出された。15年には、野茂に続きアジア人2人目のMLB殿堂入り候補に名を連ねた。

 

 パクがドジャースでローテーション入りを果たし、自身初の2ケタ勝利(14勝)をあげた97年、韓国の出生率は1.54だった。その後も下降線をたどり23年の出生率は0.72。OECD加盟国では最低の水準である。

 

 韓国の人口はおよそ5200万人。そのうちの約半数がソウルを中心とした首都圏に住む。ソウルの出生率は0.55。不動産価格の高騰に加え、重過ぎる教育費の負担。生活苦を回避するための晩婚化、未婚化が少子化に拍車をかける。

 

 その影響はスポーツにも及ぶ。大韓体育会によると、05年に2684人だった学生バレーボール人口は23年、2255人に。2758人だった学生バスケ人口は、2237人に。前者は16%、後者は19%も減少した。人気スポーツのサッカー、野球も推して知るべし。スポーツで夢を与えようにも、与えるべき層が年々細っているのが現実だ。

 

「体力は国力」。このスローガンでもわかるように、韓国のスポーツは48年の建国以来、国威発揚を主目的としてきた。徹底した少数精鋭主義で、国際大会では、日本に伍する成績をあげてきた。たとえば野球を支える高校の部活。日本の3818校(23年)に対し、韓国は70校前後。ボトムアップよりプルトップ型の指導方針で有力選手を鍛え上げ、国際競争力を維持してきた。

 

 しかし、今後はこの得意手も使えなくなるだろう。少数ならまだしも、韓国で超少子化を意味する“小数点”精鋭主義では、さすがに強化にも限界がある。もっとも、これは日本にとっても“対岸の火事”ではないのだが…。

 

<この原稿は24年3月20日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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