タイミングがいいのか、悪いのか…。ドジャース大谷翔平の通訳・水原一平氏の違法スポーツ賭博問題が日本で報じられた翌日の3月22日、文部科学省は2025年度から中学で使用される教科書の検定結果を公表した。

 

 その中にはドジャースを解雇されたばかりの水原氏が、大谷とともに紹介されている英語の教科書もあり、波紋を広げている。

 

 23日付けの本紙によると、水原氏を取り上げたのは「教育出版」という出版社。アスリートを支える、“裏方”の仕事にフォーカスした内容で、タイトルは「People Who Support Success」。すなわち「成功を支える人々」。スポーツの世界は、光り輝くスターだけで成り立っているわけではない。出版社はいいところに目を付けた。

 

 採用するかしないかの判断は、各市町村の教育委員会の判断に委ねられているとはいえ、事がここまで大きくなった以上、手を入れないわけにはいくまい。同社は「内容の差し替えも含め検討せざるを得ない」とコメントしている。

 

 さて、問題はここからだ。内容の一部見直しは仕方ないとしても、全面的な差し替えは、できれば避けて欲しい。むしろ、この事案の顛末を記すことで、違法賭博に手を出すことの恐ろしさをきちんと中学生たちに伝えてもらいたい。少年少女を“魔の手”から守る、またとない機会とすべきではないか。

 

 というのも、近年、オンラインカジノの普及により、青少年にも「依存症が増えている」という話をよく耳にするからだ。ゲーム感覚で楽しめるため、参加へのハードルが低い。だが一度、非合法賭博の“沼”にはまると、そこから抜け出すのは容易ではない。

 

 その結果、どうなるか。「誰かが家に押しかけてくるのではないか。身の安全も怖かった」。これは水原氏のセリフだが、妄想ではなく、おそらくはそれに近いことがあったのだろう。

 

 かつてドジャースにヤシエル・プイグという強肩強打の外野手がいた。キューバからメキシコに亡命し、米国にたどりついた。ドジャースと契約後、すぐに頭角を現し、14年にはオールスターゲームのメンバーにも選出された。

 

 だが好事魔多し。有頂天のプイグは違法賭博に手を出し、借金の返済を迫る“その筋”の人たちに追いかけられる。

 

 プイグは「借金は払った」と、それ以上の支払いを拒否したが、どうやら別の人物が持ち逃げし、胴元にまでは届いていなかったという。以来、プイグは身の危険をしきりに訴えるようになり、19年を最後にMLBから姿を消した。

 

 このように、ビッグリーグにおける光と闇は紙一重である。そもそも教育とは失敗から何かを学ぶことではないか。手直しした教科書を是非、未来を担う中学生たちに届けて欲しい。

 

<この原稿は24年3月27日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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