門脇誠選手(巨人)をはじめ、多数のプロ選手を輩出している創価大学硬式野球部。卒業生の活躍や目指す野球について、当HP編集長・二宮清純が佐藤康弘監督と高口隆行コーチに聞く。

 

二宮清純: 創価大学のOB選手といえば、門脇選手が注目されています。ルーキーイヤーの昨季は126試合に出場し、打率2割6分3厘、11盗塁。不動のレギュラーだった坂本勇人選手を押しのけて、ショートに定着し、今季も活躍が期待されています。入学当初からプロでの活躍が予想されていたのでしょうか。

佐藤康弘: いや、そこまでではなかったと思います。当時、私はピッチャーを指導していたのであまり印象にないということもありますが、明確に覚えているのは彼が1年時の春のリーグ戦でトンネルをしたこと。おかげで試しに投げさせたいと思っていたピッチャーが出せず、イライラしました(苦笑)。

 

二宮: 今ではショートとして多くの好プレーを見せているのに……。するとうまくなったのは、いつごろから?

佐藤: 私の中では4年の夏ですね。急激にうまくなった印象です。打撃面でも4年秋のリーグ戦(東京新大学野球連盟)で前年秋に続いて首位打者を獲得し、「これはプロから声がかかるかもしれないな」と思いました。

 

二宮: 巨人のレギュラーを取るくらいですから、1年生の時から“別格で、誰もがプロ行きを確信するような選手だったのかと思っていました。

佐藤: 足の速さも注目されていますが、単純な速さだけならもっと速い選手はいましたからね。ただ、野球に対する姿勢や人間性はピカイチで、真面目によく練習していました。ドラフト後も、巨人が朝5時半からアーリーワークをしていると聞いて、寒い冬にもかかわらず、同じ時間から室内練習をしていました。

 

二宮: 高口コーチの門脇選手に対する印象は?

高口隆行: 私が創価大のコーチになったのは昨年なので、門脇選手とは重なっていないんです。

 

佐藤 でもドラフト後、高口コーチが練習を見に来た時に門脇に話しかけていたよね?

高口: ああ、少し守備の練習を見た時に、「プロに入って苦労するかもしれないな」と思ったからです。

 

二宮: 高口コーチは創価大から北海道日本ハムに入団し、その後も千葉ロッテ、巨人で内野のユーティリティープレーヤーとして活躍しました。具体的にどういった点が気になったのでしょう?

高口: 打球に対し、足の運び方がスムーズではない点です。バウンドしてきた打球に対して、うまくポジションに入れていなかった。表現が難しいのですが、うまい選手というのは、ボールが吸い込まれるようにグラブに入っていきます。ところが彼の場合は、打球に向かって突進してドンと衝突するような感じでした。打球に対して自分の勢いで詰めていくのではなく、一歩引いてボールを遠くから見るような感じでいったらどうか、という話をしたと思います。

 

二宮 なるほど、それによってバウンドしたボールにスムーズに入れるようになるわけですか。

高口 はい。それに東京ドームの人工芝の好影響もあるかもしれません。土のグラウンドだと「打球がイレギュラーするのではないか」という恐怖心がありますが、人工芝はそうした不安が少ないので、怖がらずスムーズにボールに向かえます。

 

佐藤: あとは、ファーストの影響もあるのでは?

二宮: 確かに、ファーストがうまいといいんですよね。どんな送球にも対応できる捕球技術はもちろん、先にきちんと塁上で待っていてくれることも大事。これが慌てて入られると、送球するほうも不安になります。昨季、巨人のファーストは守備に定評がある中田翔選手(現・中日)が入ることが多かったので、その点は門脇選手にプラスに働いたかもしれませんね。

 佐藤監督はピッチャーを主に見てこられたということなので、OBのピッチャーについてもお聞きしたいと思います。昨季、福岡ソフトバンクから日本ハムに移籍した田中正義投手は25セーブをあげるなど、守護神として活躍しました。何か本人から連絡はありましたか。

佐藤: 1月に自主トレで門脇や小川泰弘(東京ヤクルト)、石川柊太(ソフトバンク)と一緒に大学に来てくれて、少し話ができました。

 

二宮 田中投手といえば2016年のドラフトの超目玉で、5球団競合の末、ソフトバンクに1位指名されました。私も大学時代の投球を見たことがありますが、何年かに一人の逸材だと思いました。

佐藤: 今でも覚えていますが、4年に上がる前の2月、ブルペンで投げる姿を見ていて、そのボールに驚愕しました。〝うなりを上げる〟とはまさにこのことで、それこそメジャーリーグでも通用するのでは、と思ったほどです。

 

二宮: ソフトバンクに行って伸びなかったのは、けがのせいでしょうか。

佐藤: それも一つの原因だとは思います。大学の時、1~2カ月休むようなこともありました。明確にどこが悪いというわけではないのですが、肩がゆるいというか、腕の振り以上にボールが走ってしまうと、肩に支障をきたしていたのかもしれません。

 

二宮: ルーズショルダー(肩関節不安定症)かもしれませんね。千賀滉大投手(ニューヨーク・メッツ)も同じように肩関節が外れやすかったようです。裏を返せば、それだけ肩の可動域が広く、柔らかいのでボールにスピンがかかりやすい。いわゆる“伸びるボール”になるわけです。

佐藤: でも、今は肩周りを鍛えたことでだいぶ改善したようです。ソフトバンクはいいピッチャーが多くてチャンスが少なかったでしょうから、日本ハムに移籍したこともプラスに働いたと思います。

 

二宮: ソフトバンクといえば、石川投手も昨季はノーヒットノーランを達成するなど、先発ローテーションの一角を担っています。腕のしなりが素晴らしいですね。

佐藤: 彼は、高校3年生を対象にしたセレクションで入部しました。当時は体がひょろひょろで、岸(雅司)監督も「佐藤、あれは無理だろう。(練習に)ついてこられない」と言っていた。でも、腕の振りがよくて、軽く投げている感じなのにボールがビシッと走る。その腕の振りの良さに懸けました。

 

(詳しいインタビューは4月1日発売の『第三文明』2024年5月号をぜひご覧ください)

 

佐藤康弘(さとう・やすひろ)プロフィール>

1967年、栃木県生まれ。創価高校から創価大学に進学。東京新大学野球リーグで、2年生の秋にピッチャーとしてノーヒットノーランを達成した。大学卒業後は社会人野球のプリンスホテルに進み、1年目から活躍。92年にバルセロナ五輪の野球日本代表に選ばれ、銅メダル獲得に貢献した。96年の現役引退後は、創価大学硬式野球部でコーチを務め、多数のプロ選手を輩出。2022年秋、同野球部監督に就任した。

 

 

高口隆行(たかぐち・たかゆき)プロフィール>

1983年、東京都生まれ。小学1年で野球を始め、江戸川南リトルで全国制覇。創価高校から創価大学へと進み、東京新大学野球リーグでベストナインを獲得するなど活躍した。2005年のドラフト会議で北海道日本ハムから6位指名を受けて入団。千葉ロッ、巨人を経て13年に現役を引退した。その後、日本ハムのベースボールアカデミーコーチやスカウト、オリックス2軍内野守備走塁コーチなどを歴任。23年2月から創価大学硬式野球部コーチとして選手の育成に努めている。


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