小林幸一郎(モンキーマジック代表理事)<後編>「人とコミュニティを繋ぐ役割を」

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二宮清純: 2005年に設立したNPO法人モンキーマジックの名称の由来は?

小林幸一郎: モンキーはクライミングしている姿を、猿が木や山を上手に登ることから付けました。そしてマジックはタネや仕掛けがある手品から。「視覚に障がいのある人がクライミングできるんですか?」と思われる方もいますが、実は特別な能力が必要なのではなく“誰にでもできること”なんです。タネや仕掛けが分かればてきる手品と同じです。それで、この名前にしました。

 

二宮: 覚えやすいですよね。

小林: ありがとうございます。耳残りって大事なんです。これがマジックモンキーだったら違っていたでしょうね。また世代によって『ゴダイゴ』の曲をイメージする人もいれば、カナダ人ボーカルのバンド『モンキーマジック』を思い浮かべる人もいます。いろいろなきっかけで、私たちの名前を覚えてくれることはありがたい。

 

二宮: 設立から20年近くが経ちましたが、手応えは?

小林: 障がい者のクライミングを、NPO法人モンキーマジックという名前を知っている方が様々な場所で増えてきました。私たちがやってきたことが、少しずつでも前進している結果かなと思っています。

 

二宮: モンキーマジックのHPに、<人は障がいがあるから、年を取ってしまったから“自分にはできない”と自分で見えない壁をつくってしまいがち>という文章があります。その“見えない壁”を乗り越えることがNPO法人の指針ということでしょうか?

小林: おっしゃる通りです。「見えない壁だって、越えられる。」というのが私たちの活動のコンセプトです。クライミングはそれを疑似体験できるスポーツだと思っています。怖かったり、大変そうに思えたりして“私には無理”と思ったことを乗り越えようと向き合うことに価値があり、時に大きな達成感が得られるんです。

 

二宮: その“壁”は障がいのある人だけが越えるものではないと?

小林: 元々、モンキーマジックは視覚障がいのある人を対象にしたクライミング教室からスタートしました。2012年からは障がいのある人とない人がクライミングというスポーツを通じて出会える場所をつくろうと、交流型のクライミングイベントを始めました。そうしたイベントを開催したことで、障がいのある人にクライミングの機会が増えたと喜んでいただきました。また障がいのない皆さんからは、「障がいのある人との出会いの場となり、クライミング仲間になったことで、彼らをより理解し、知ることができた」という声が聞かれました。

 

 世界で一番暮らしやすいまち

 

二宮: 人と人を繋ぐことがクライミングにはできるということですね。東京パラリンピックの開催前後、「バリアフリー」という言葉が、それまで以上によく聞かれるようになりました。小林さんが「まだまだ足りない」「改善すべき」と考える点はありますか?

小林: この質問をよく受けますが、私は視覚障がいある人にとって、世界で一番住みやすいのが東京だと思っています。2016年、視覚障がいのある人が線路に転落して亡くなった痛ましい事故が起きた後、“駅でお声がけをしてください”という運動が広まりました。その教育の広がりなどもあってか、多くの方にお声掛けいただけるようになり、以前より安心してまちを1人で行動できるようになっていると変化を実感しています。

 

二宮: ソフト面でも、いわゆる“壁”が取り払われてきたわけですね。

小林: はい。元々日本は、ハードは充実していても、ソフトが充実していないと言われてきました。ソフトがハードに追いつくような時代になってきたと感じます。重箱の隅をつつくような話よりも、たとえば「これがおいしかったよね」という話の方が人は笑顔になれますからね。

 

二宮: ネガティブな話よりもポジティブな話に目を向けたいと?

小林: はい。東京が充実した豊かなまちだと思えるひとつの例は、1人で駅まで行って、駅員さんに相談すれば、乗り換えの介助をしていただける時です。極端に言えば「今からミュンヘンに行きたいんです」とお願いすれば、羽田空港まで乗り継ぎの手配をしてくれ、羽田空港に着いたら職員の方がチェックインカウンターまで連れて行ってくれる。もちろん搭乗中もサポートしていただける。視覚障がい者でも自由に行動できるまちは他にないかもしれません。

 

二宮: それを肌で知っている小林さんの言葉だけに説得力があります。では最後に今後の目標を?

小林: 来年、法人を立ち上げて20年を迎えます。過去の20年から次の20年をどうしていくか。これまで全国20都市でクライミングイベントを実施しましたが、47都道府県のどこに住んでいらっしゃる方でも参加できるように拠点を広げていきたい。いつかは47都道府県すべてで開催できるようにしたいですね。

 

二宮: クライミングイベントの全国展開をしていきたいと?

小林: はい。加えて、私たちが日本で培ってきた経験をアジアの国々にも届けたいと考えています。障がい者クライミングの国際大会に選手を送り続けている国はアジアの中では日本くらい。スポーツクライミングに目を向けると、いろいろな国の選手が出てきている。障がい者クライミングとの違いを考えると、まだ障がいのある人とスポーツクライミングのコミュニティを繋ぐ、アダプターのような役割がない。それを私たち、モンキーマジックが担っていきたい。「こんなことができたら社会がもっと豊かになり、人々の笑顔が増えるよね」というポジティブな発想をどんどん生み出し、実現させていくことが私たちの使命だと思っています。

 

(おわり)

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小林幸一郎(こばやし・こういちろう)プロフィール>

NPO法人モンキーマジック代表理事。1968年、東京都出身。16歳でフリークライミングに出合う。大学卒業後は旅行会社、アウトドア衣料品販売会社などの勤務を経て独立。28歳で進行性の眼病「網膜色素変性症」と診断された。2005年、視覚障害者のフリークライミング普及活動を行うNPO法人モンキーマジックを設立し、代表理事に就任。2018年には日本パラクライミング協会の副理事に、2020年に共同代表理事に就任した。パラクライミング世界選手権ではB1とB2クラス合わせて5度優勝。著書に『見えない壁だって、越えられる』(飛鳥新書)などがある。

 

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NPO法人STAND代表の伊藤数子さんと二宮清純が探る新たなスポーツの地平線にご期待ください。

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