近年最高の盛り上がりをみせた今季のNBAもいよいよ大詰め――。
 最終決戦プレーオフも後半に差し掛かり、ベスト4の座をかけた争いも佳境に入った。6月に行なわれるファイナルに向けて、強豪チームが連日凌ぎを削り、米スポーツファンをエキサイトさせ続けている。
(写真:全米を熱狂させているNBAプレーオフに異変が生じている)
 しかし、意外な誤算も生じている。
 プレーオフ開幕前には東西の大本命と言われたボストン・セルティックスとロスアンジェルス・レイカーズが、蓋を開けてみれば青息吐息。ラリー・バードやマジック・ジョンソンの時代からの宿命のライバル同士が、プレーオフでそれぞれの形で大苦戦を味わっているのだ。

 このままいけば、全米のスポーツファンが望んでいると言われるボストン対LAのドリーム・ファイナル実現は微妙か。
 セルティックスの「ビッグスリー」は、レイカーズのコービー・ブライアントは、この試練を突破できるのか。NBA人気復興の鍵を握ると言われる彼らの行方に、業界全体の視線が注がれているのである。


イースタンカンファレンス 
 レギュラーシーズン通算で66勝16敗。一時はリーグ記録を塗り替える勢いで突っ走ったセルティックスは、今季を通じて最大の注目チームであり続けた。ケビン・ガーネット、レイ・アレン、ポール・ピアースの「ビッグスリー」を中心とした瑞々(みずみず)しい攻守は魅力たっぷり。勢いに乗る彼らが、このままあっさりとファイナルまで駆け上がるのだろうと誰もが思った。

 しかし迎えたプレーオフ1回戦では、セルティックスは第8シードのアトランタ・ホークス(シーズン37勝45敗)に手こずった末に、第7戦でようやく勝利。続くカンファレンス・セミファイナルでも、怪物レブロン・ジェームス率いるクリーブランド・キャバリアーズを相手に、第5戦まで終えた時点で3勝2敗(5月14日現在)と苦戦を味わっている。レギュラーシーズンでみせた強さは陰を潜め、プレーオフ独特の緊張感に飲まれてしまっているようにも見えるのだ。
(写真:伝統チーム・セルティックスの快進撃を多くのファンが望んでいるのだが……)

「現在のセルティックスはNBA王者に値するチームではない。シーズン中にあれだけ見事な戦いをみせたあとで驚くべきことだが、ビッグスリーは正しいプレーの方法を忘れてしまったようだ。やはり1年間でチャンピオンシップチームを作り上げるのは難しかったということなのだろう」
『スポーツ・イラストレイテッド』誌のイアン・トムセン氏はそう語る。

 実際にその言葉通り、プレーオフに入って以降、大事な勝負どころでビッグスリーの誰もステップアップできず、それが接戦を勝ち切れない直接の要因となってしまっているのだ。
 もともと過去に個人的な成功は手にしていながら、大きな勝利の実績のなかったガーネット、ピアース、アレンの3人に対し、修羅場での働きを疑問視する声は多かった。その懸念が的中した形で、ここに来ての評価急落に繋がっている。

 それでもまだ彼らの戦いが終わったわけではない。それぞれ実力的には疑う余地はないのだから、何らかのきっかけ次第でプレーオフでも力を発揮できるようになるかもしれない。評論家たちの酷評に反し、セルティックスがここから体勢を立て直し、キャブス、ピストンズを連破する可能性も充分残されている。

「彼らをまだ“ビッグスリー”と呼ぶべきじゃない。ファイナルを制覇したとき、やっと“ビッグスリー”という呼び名が相応しくなるのだ」
 ガーネット入団記者会見時の、ダニー・エインジGMのそんな言葉が思い出される。ときは流れ、審判のときがやって来た。セルティックスの新ビッグスリーは、今、キャリアの正念場を迎えようとしている。
(写真:サム・キャセール(左)、ケビン・ガーネットらセルティックスのベテランたちは試練を突破できるのか)


ウエスタンカンファレンス
 プレーオフ1回戦でデンバー・ナゲッツをスイープした時点では、レイカーズは向かうところ敵なしのようにも見えた。圧倒的な強さでアレン・アイバーソン、カーメロ・アンソニーらを擁するナゲッツを一蹴。さらに、ときを同じくしてコービー・ブライアントの今季MVP受賞も明らかになった。

 この1回戦終了後には、レイカーズの主力選手たちは士気を高めるための食事会を開催。そしてその支払いをコービー(向こう3年間で平均2300万ドルの年俸を手にする)が志願すると、チームメートたちからも「MVP」コールが巻き起こったのだという。

 ブライアント、ポウ・ガソル、ラマー・オドムらが中心となった攻守共にスキのないチームに、ついに芽生えた抜群のケミストリー。不安要素などもう何もない。コービーとレイカーズにとって、シャキール・オニールが去って以来初めてとなるファイナル進出は射程距離に入ったように思えたのだ。

 ただ、カンファレンス・セミファイナルで、このハリウッドのスター軍団の前に難敵が立ちはだかった。昨季もカンファレンス・ファイナルまで進出した強豪ユタ・ジャズである。
 優れたPG(デロン・ウィリアムス)、頼れるビッグマン(カルロス・ブーザー)、守備のストッパー(アンドレイ・キリレンコ)、名コーチ(ジェリー・スローン)と、ジャズは強者に必要な要素をすべて備えている。

 そして何より恐ろしいのは、このチームはホームゲームで異常なまでの強さを誇っていることだ。今季中にユタで行なわれた41試合で、ジャズはなんと37勝4敗。ホームアリーナの強烈な大歓声を力に変え、彼らは地元では破竹の勢いで勝ち続けている。
 案の定、レイカーズもユタでのシリーズ第3、4戦に連敗。このままいけば再び敵地開催の第6戦でも勝ち目は薄く、その場合にはシリーズは3勝3敗のまま天下分け目の最終第7戦にもつれ込むことになる。

 ホームコートアドバンテージを持っているレイカーズは7戦目をLAで戦えるため、依然として有利ではあるのだろう。ただシリーズがそこまでもつれてしまったらもう何が起こっても不思議はない。地力に勝るレイカーズが最後に足下をすくわれても、まったく驚くべきことではないだろう。

 余りにも順風満帆だった今季———。しかし春が来て、レイカーズはモルモン教の聖地・ユタで試練を味わっている。
 ここを突破できねば、約束の地・ファイナルは視界に入って来ない。そしてもしもファイナルに辿り着けねば、例えMVPを獲得したあとでも、コービー・ブライアントの今シーズンは失敗とみなされるに違いないのだ。
(写真:キャリア初のMVPを獲得したコービー・ブライアントだが、ファイナルに進めねばその喜びも半減だろう)



杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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