女子バスケットボールのWリーグは、大詰めを迎え、ファイナル(4月13日~)とオールスター(5月3、4日)を残すのみとなった。ファイナルには富士通レッドウェーブとデンソーアイリスが進出。古豪シャンソン化粧品シャンソンVマジックはセミファイナルで富士通に敗れ、3季連続ベスト4でシーズンを終えた。

 

“ミラクルシャンソン”。プレーオフでの劇的な戦いぶりから、そう称された。桜咲く季節に花開いたピンクがチームカラーのシャンソン化粧品。その中でコート上を駆け回る12番の選手が目に付いた。彼女の名は知名祐里。入団4季目の22歳のガードである。魔法使いのような多彩なパスを放るわけではない。スナイパーのようにゴールを射抜くシューターでもない。直向きで泥臭いプレーが光っていた。

 

 富士通とのセミファイナル第2戦。19点差からの逆転劇で勝敗をタイに戻した。その立役者は決勝スリーポイントを決めたキャプテンの小池遥、チームの得点源イゾジェ・ウチェ、途中出場から10得点をマークした金田愛奈、同じくベンチメンバーながら一時同点に追いつくスリーを入れた白崎みなみ……。その誰でも間違いはないが、私は6アシストを挙げた知名を推したい。

 

 知名の投入によりシャンソン化粧品の攻撃のリズムが変わったように見えたからだ。

「(鵜澤潤)HCからは、自分がボールを持った時には『どんどんブレイク出せ』『チームを落ち着かせて(イゾジェ)ウチェをうまく使え』と指示されていました」。スピードを生かしてボールを運ぶ時もあれば、あえてペースダウンしてじっくり攻めようとする場面も見受けられた。

 

 また厳しいマークが集まるイゾジェに対しても落ち着かせるような声掛けをしていた。

「スタートで出ている選手の中では自分が年齢的に近いので、寄り添ってあげられたらいいなと思っています。ウチェはオフェンスでもディフェンスでも起点となる選手。少しでも自分がコントールできることがあるなら、チームはいい方向に向かっていくはずだと思い、今季は意識して声掛けした部分はありました」

 第2戦で両軍最多の24得点を挙げたナイジェリア出身の19歳を、メンタル面で下支えした。

 

 第3戦も序盤大量リードを許し、追いかける展開となった。第1クオーターで20点差を付けられた。知名も流れを変えるべくコートに送り出されたが富士通のベンチメンバーたちの奮起もあり、差を詰められない。「自分たちとしては相手のスリーポイントを抑えようと、今回のゲームに挑んだんですが、前半に6/7決められた。自分たちがリズムに乗れず、相手に勢いを乗らせてしまった。自分たちのバスケットをできなかったことが敗因」。コートを駆け回り、ボールを必死に追った。マークした相手にはスッポンディフェンスの如く食らいついた。4スティールがボールに対する執着心の賜物だ。

 

「今まで応援してくださった方たちに結果で恩返ししたかった。ファイナルまで行けなかったのは正直悔しいです。コートに立っている間は足が壊れてでも全力でプレーしようと、ベンチにいる時からずっと思っていました。最後まで全力を尽くせたけど要所要所で決めることができなかった。そういったところの弱さは成長していかなければいけない部分」

 23分2秒はチーム5番目のプレータイム。知名はこの試合で6得点を挙げたが、フィールドゴール成功率は30%未満に終わった。

 

 沖縄の西原高校からシャンソン化粧品に入団して4季目の知名。今季レギュラーシーズン26試合中25試合、プレーオフは全試合で起用された。「勝ち上がっていくたびに、『頑張ってね』と声をかけていただいた。自分たちはやっぱり支えられてバスケットができているんだと感じられたプレーオフでした」。スターターの座こそ勝ち取ることはなかったが、シャンソン化粧品の中でなくてはならない存在になりつつある。「1番(PG)と2番(SG)で起用してもらっている。1番の時はゲームコントロールとみんなを引っ張る力を身に付けなければいけない。アシストだけでなく得点も取れる1番、2番になっていきたい」。涙でコートを後にした22歳はミックスゾーンで、真っ直ぐな目で前を見た。

 

(文・写真/杉浦泰介)