どうやらライオンズの強さは本物のようだ。5月25日現在、32勝18敗1分けでパ・リーグの首位。昨季、26年ぶりにBクラスに転落し、今季も苦戦が予想されたが、再建は急ピッチで進んでいる。

 チームを変えたのは今季から監督に就任したOBの渡辺久信だ。
「ウチはもう失うものがない。だから怖いものなしですよ」
 キャンプで彼はそう語っていた。

 その言葉どおりの采配を見せている。盗塁数48はリーグトップ。「積極的なミスなら怒らない」という“渡辺イズム”がチームに浸透しつつある。

 開幕戦の采配からして衝撃的だった。対オリックス戦の9回裏、1対2と1点ビハインド。2死無走者から代打・大島裕行がセンター前にヒットを放つ。代打は赤田将吾。
 なんと渡辺は赤田に2盗を命じたのだ。失敗すればゲームセット。盗塁のサインを出すには勇気のいる場面だ。
 渡辺の期待に応えた赤田は2盗に成功。後続にヒットがなく、試合には敗れたが、「ウチはチャレンジャー」という渡辺の姿勢ははっきりと確認できた。

 42歳の指揮官を支える、2つ年下の打撃コーチの評判もいい。人気者のデーブ大久保こと大久保博元だ。ベンチではムードメーカーに徹し、若い選手のよきアニキ分となっている。「教え方もユニークですよ。たとえば内角球の打ち方は趣味のゴルフにたとえて、腕のたたみ方や下半身の体重移動を説明している。じつにわかりやすい」とは野球評論家の橋本清氏。

 お目付け役は69歳の黒江透修ヘッドコーチ。V9巨人の名遊撃手で、長嶋巨人、広岡西武、森西武、王ダイエーなどで作戦参謀として活躍した。いわば“球界の山本勘助”。球界きっての知将、野村克也・楽天監督でさえ一目置く人物だ。若大将とムードメーカーと老参謀――「所沢版・隠し砦の三悪人」の帰趨に注目したい。

<この原稿は2008年6月7日号『週刊ダイヤモンド』に掲載されたものです>

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