どんなピッチャーなのか気になっていた。甲子園で投げていた姿はかすかに覚えている。キャンプでのピッチングもチラリと見た。
 しかしプロに入ってからは泣かず飛ばず。192センチの長身。「未完の大器」と呼べば聞こえはいいが、そう呼ばれたピッチャーのほとんどが「未完」のままで終わっている。

 とりわけサウスポーにその傾向は強い。ブルペンではメジャーリーガークラスのボールを放るがマウンドに上がると制球に苦しみ、途端に腕が振れなくなるのだ。
 楽天の2005年の高校生ドラフト1巡目指名選手・片山博視(報徳学園)もその類だと思っていた。高校3年時には10球団が指名の挨拶に訪れ、楽天と広島の2球団が1巡目に指名した。
 同期に156キロ左腕の辻内崇伸(大阪桐蔭−巨人)がいる。スカウトの評価はほぼ同等だった。
1年目、2年目ともに1軍登板なし。1年後輩のマー君こと田中将大には、とっくに先を越されてしまった。コントロールに難があり、それが克服できなかったのだ。

 その片山がさる6月3日、本拠地での阪神戦で最終回、マウンドに上がった。プロ初登板だ。得点は11−4と楽天リード。野村克也監督の配慮が窺えた。
 最初のバッターは浅井良。いわゆる手投げなのに、いきなり144キロをマークした。確かにモノはいい。だがコントロールが安定しない。あっという間に0−3。どうにか凡打に打ち取ったが、ストライクを投げるのが精いっぱいといったピッチング。
 続く関本賢太郎もカウントを0−3とし、歩かせてしまう。下半身が弱く、立ち投げのような状態になるのだ。ここを矯正しない限り、ノーコン病は治らないだろう。
 4番の金本知憲からプロ入り初三振を奪った。尻上がりに調子を上げ、ランナーを二人出したものの無失点で切り抜けた。

「本当に緊張しました。マウンドに上がって頭が真っ白になりました。何も覚えていない。これまでの人生で一番緊張しました」
 試合後、顔を紅潮させて片山は言った。

 オヤッと思ったのはスローカーブ。近年、この手のボールを投げるピッチャーは少ない。ストレートとうまく組み合わせればバッターはタイミングを取るのが難しいはず。腕が遅れ気味に出てくるのもいい。

 将来的には先発を目指すべきだろう。そのための条件は一にも二にもアウトローのストレートの精度を上げることだ。バッターを早く追い込めば、これだけの球威があるのだ。そうそう打たれることはあるまい。
 現在、楽天には左のセットアッパーが不足している。クロスゲームで使える目処が立てば首位西武の背中に手が届くかもしれない。

「若い人が台頭するとベテランが刺激を受けて、好循環現象が起きるんだ」
 と、野村監督。貯金は球団史上最多タイの4(6月3日現在)。ひょっとするとひょっとするかもしれない。

<この原稿は2008年6月22日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

◎バックナンバーはこちらから