コロナで大打撃を受けたのはプロスポーツだけでなく、参加型スポーツも同様だ。

 ランニングやトライアスロン、自転車イベントまでが軒並み中止となり、それらに関わる仕事を生業としていた方々は大きな痛手を負った。

 

 痛手を負ったのは主催者側だけでなく、参加者も同様である。目標を突然奪われ、その結果、愛好者人口も激減してしまった。屋外での活動がはばかられる時期だったとはいえ、一人で走ることや自転車に乗ることはできたはずだが、やはりこの手のスポーツでは「大会」という目標が、継続するには大きな要素であったことが推測される。逆を言えば大会に申し込めば、継続へのモチベーションが上がることを証明している。なかなか続けられない人は、大会に申し込んでしまえばいいとも言える。ちなみに、僕はセミナーなどで、これを「自分のお尻に火をつける作戦」と呼んでいて、自ら締め切りをつくり、モチベーションを高める手法を推奨している。

 

 コロナ禍によるイベントの暗黒時代から昨年解放されたわけだが、やはり一度止まった歩みはすぐに戻らない。昨年はマラソンやトライアスロンで、募集人員に届かない定員割れが相次いだ。皆はスポーツを辞めてしまったのか……。

 データを見たり、周囲にヒアリングしたりすると、大会がなくなってモチベーションを失い、“休業中”という方が少なくない。たった2年ほどであったとはいえ、その期間で運動習慣や生活スタイルが変化してしまったというのだ。一方で世の中のムードの変化に後押しされ、少しずつ競技を再開している方もおり、昨年度は全国のイベントエントリー数ベースでみると、コロナ前の8割程度までは戻っているようだ。

 

 それと、同時に感じるのは、昨年からの参加者の中に、新しく始めている方が多いということ。僕が主催する大会でも、「着替えはどこに置くんですか?」「どんなウエアで走ればいい?」など、競技以前の超初心者的な質問が多くなった。現場にも、購入したての自転車をまだ箱に入った状態で持って来る方などもいたりして驚かされる。それでも、業界として新規参入者が増えていることは嬉しい。コロナ後に戻ってこられなかった方と入れ替わっているということなのだろう。ランニング業界も、参加数がコロナ前の8割程度であるにもかかわらず、新規登録者が過去最高を示しているそうだ。コロナ後に辞めている人も一定数おり、新しく始めた方と入れ替わっていると読み取れる。結果的にコロナ禍という大きな山は、愛好者層が入れ替わる大きなきっかけになったようだ。

 

 愛好者のマインドの変化

 

 もう一つ感じる新しい傾向は「スポーツをする喜びを大会以外に見出してきた」ということである。「トライアスロンは大会に参加してこそ」と、僕はこれまで思ってきた。ところが、大会には出ないけど練習はするという層が最近見られるようになってきた。大会に出る面白さより、日々走ったり泳いだりすることそのものを楽しんでいる方々である。トライアスロンスクールを主宰する立場として、これまであまり出会わなかったタイプであり、当初は驚いたが、それぞれが体を動かすことで喜びを感じ、人生が幸せになるなら問題はない。

 

 ランニング業界でも継続するモチベーションを調査すると、やはり1位は「大会出場のため」という声が多いのだが、伸びているのが「走ること自体が楽しい」とか「お酒や食事がおいしい」というライフスタイルや生き方に属する答えだ。大会における「距離」や「タイム」という目標設定をするだけではなく、カラダを動かすこと自体に重きを置く。それが人生を豊かにするという大きな尺度に移行しているような印象を受ける。

 

 確かに、何のためにスポーツをするのかと考えると、最終的には人生の充実や、幸福感を求めている。コロナ禍の大会休止期間というものが、そんなことを改めて考えさせてくれた契機なのかもしれない。この変化はある意味スポーツに取り組むマインドの成熟と言えるかもしれないし、取り組む姿勢が大人になったと言えるのかもしれない!?

 

 そうすると、愛好者のマインドの変化がある中で、大会側として既存の思考回路のままでは取り残される可能性がある。コンペティションやタイムに挑むというのは大会の基本だが、それだけにこだわることなく、新しい価値の提供を投げかける必要があるのかもしれない。巷では、パンを食べ歩く、いや「食べ走る」ランとか、仏像散策ランなんていうのもある。この業界に40年近くいて、固定観念が凝り固まった僕のような人間にはあまりにも斬新なアイディアでも、愛好者が「大会=限界に挑戦」という感覚だけでなくなっているのは確かだ。まあ楽しみ方も多様性ということか。

 

 ともあれ、今朝もプールで泳いだらスッキリした。この感覚、悪くないね。

 スポーツをする幸せを丁寧に感じることを、もう一度見直してみるタイミングなのかもしれない。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール>

 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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