第265回「贅沢スポーツ!? マラソン」

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 その日の東京は、素晴らしい青空が広がっていた。

 雲一つない空の下、街中を走っていたのは車ではなく人。それも大勢の人が、いつもは車で溢れかえる道路を占領している。

 

 今年で17回目を迎える東京マラソンは、これまででもっとも素晴らしい天候に恵まれた。

 いつもは寒さの中で震えてスタートを待つランナーも、この日は笑顔に包まれ和やかな雰囲気。そして、海外からのランナーも増え、日本語以外の言語も頻繁に耳に入ってくるので、インターナショナルなムードに溢れ、参加者の気分も盛り上がる。

 コース沿道にも100万人を超える多くの観客が詰めかけた。まさに東京が「マラソン」というお祭りで盛り上がった一日となった。

 

 しかし、国内都市マラソン自体には少々厳しい時代を迎えている。コロナ前まで、どの大会も定員を超えるエントリー数があったものの、コロナ禍後の昨年以降は定員割れをする大会が増えている。多くの地方大会が定員を割り込み、大都市圏の大会、大阪や横浜、ちばアクアラインなどでも苦戦。ランニング人口はさほど減ったわけではないのだが、大会参加者は確実に落ち込んでいる。その原因として、エントリーフィーの高騰、大会数の増加なども関係しているのではないかと専門家は分析している。

 

 さらに大会を苦しめるのは、諸経費の高騰だ。なかでも人件費は明らかに膨れ上がっている。安全対策として増員が必要な警備関係は、単価も含めて高騰しているのが実情。その他、備品類もすべて値上がりしているなかで、運営は困難を極める。

 

 そもそも多くの大会が、エントリーフィーのみでは運営経費を賄えないため、スポンサーや自治体の補助で成立している。本来は受益者負担で行うのが基本であるが、そうなると、エントリーフィーを倍増せざるを得ないわけで、マラソンは3万円以上という額が一般的になってしまう。警備費がかさむ東京マラソンでは、一人あたり5万円を超えることになり、エントリーするのを躊躇ってしまう人も少なくないだろう。

 

 大都会を一つにするイベント

 

 逆に言うならば、街中の道路を止め、安全にランナーを走らせるというはこれだけお金がかかるということ。国内大会はもちろん、世界でも同傾向にある。私も国内外で様々な大会運営に関わってきたが、公共の道路を占有し、ランナーはもちろん、周辺の歩行者や車などの安全を確保するには、様々な箇所で費用がかかる。悔しいくらいに……。

 

 残念ながら、公共の道路を貸切って何かをやるというのは、そういうことなのだと理解するべきなのだろう。「公共のものだから、もっと開かれた使い方をすべきである」というご意見もあるが、「公共のものを一部の人に占有させ、公共として使えないのはおかしい」との反論もあるわけで、個人的には様々な思いもあるが、これを議論するのは別の機会としたい。

 

 ここで言いたいのは、「マラソンを走るってそれだけ費用がかかるということ」。いや、「それだけのことができている幸せな時間である」との認識か。東京でいえば1万6500円を払うことで、東京の街のど真ん中を走り、100万人の声援を受けられる。人生において、こんな機会はそうあるものではない。

 

 もちろん走っていて苦しい時間帯はかなりあるだろうが、自分にチャレンジするのを、こんな大きなステージで行えると思えば幸せなはず。走り終わった方に話を聞きくと、「辛かった」「苦しかった」というコメントこそあっても、その表情は笑顔と充実感に満ち溢れている。

 

 東京には1400万人が住み、マラソンを走るのは世界から集まった3万8000人でしかない。でもその3万8000人ものランナーに素晴らしい東京を感じてもらい、100万人の観客がその感動をシェアする。これだけ多様な人が住む大都会が一体となることなどそうそうない。それが一つのイベントに、これだけ盛り上がれるなんて不思議なくらいだ。

 

 一日中沿道で、そんなランナー、そんな応援者、そんなボランティア、そんな東京を見ていると、東京という街の体温が感じられるような気がした。

 都市マラソンとは、街の体温、息遣いを世界中の人に伝えるイベントなのかもしれない。

 

 見るスポーツでも、やるスポーツでも、街を感じるスポーツでもある。

 もしかしてマラソンって凄いスポーツなのかも!?

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ

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