4月30日の早朝、U-23日本代表が準決勝で同イラク代表を2対0で破り、パリ五輪の出場権を獲得しました。3月に行なわれた親善試合の出来を見て、心配になりましたが、パリ五輪アジア最終予選を兼ねたU-23アジアカップの日程が進むにつれ、選手たちが成長した姿を見せてくれました。今月も、若き日本代表について語りましょう。

 

 乗りに乗る荒木遼太郎

 

 この原稿の執筆時点では、U-23ウズベキスタン代表との決勝戦は未消化です。準決勝までを振り返りましょう。大岩ジャパンは個人の技術、ボールの受け方とタイミング、ボールを持たない選手たちが走り出す方向など、だいぶ噛み合ってきました。協調性があり、良い方向に向かっています。

 

 イラクとの準決勝は2対0で勝利しました。特に2点目は素晴らしいかたちでした。左サイドバックの大畑歩夢(浦和レッズ)が中央に強いグラウンダーのパスをMF藤田譲瑠チマ(シントトロイデン)へ。藤田は一瞬の判断で、ダイレクトで相手のライン間に位置取るMF荒木遼太郎(FC東京)にパスを通しました。荒木は右足アウトサイドでトラップし、右足インサイドでゴール右に流し込みました。

 

 ほんの一瞬のスペースを見つけ、ボールを呼び込んだ荒木とそれを見逃さない藤田の判断は秀逸でした。荒木に限らず、MF松木玖生(FC東京)など、相手のギャップを突くようなスペースの使い方、見つけ方に長けた選手が多いのがこの世代の特徴でしょう。

 

 それにしても荒木は乗りに乗っています。今季は鹿島アントラーズからFC東京にレンタル移籍し、インサイドハーフ、トップ下、ゼロトップで起用され、リーグ4位タイの5ゴールを決めています。好調を維持し、今大会も多くのチャンスを創出しています。今の彼は迷いがなく、吹っ切れた印象があります。判断の速さも培われてきた感があります。

 

 大岩ジャパンの弱点はフィジカルを前面に押し出してくる相手に少々、飲まれる点でしょうか。「やれるだけやって、どうにでもなれ」とぶつかってくる相手にファイトする気持ちが弱くなる傾向が気になります。中盤の潰し合いにも強い松木、藤田らがチームを鼓舞してくれることを期待しましょう。

 

 大岩ジャパンにはOA不要!

 

 荒木、松木、藤田以外の選手についても言及しましょう。右サイドバックの関根大輝(柏レイソル)は随分と楽しみな選手です。このポジションで187センチの長身は貴重な選手です。セットプレー時に攻守に置いて、キーマンになっています。クロスも光るものがあります。

 

 続いて、この世代の守護神の座を掴んだGK小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)。早々に退場者を出し、数的不利となった大会初戦の中国戦は彼の活躍がなければ勝ち点3は得られていない。1対1のピンチで読みが冴え、ナイスセーブを複数回披露しました。小久保は23歳とGKとしてはまだ若いですが、しっかりと“眼”で相手の動作を見極めています。相手FWが足を振り上げたところまで見て、体勢を見て、読みを働かせています。思い切りも良いし、ゲーム中の表情、しぐささえも「最後の砦」としてふさわしい。小久保はかなり楽しみな存在です。森保一監督がA代表でチャンスを与える日も、そう遠くはないと僕は思います。

 

 さて、パリ五輪は約2カ月半後です。オーバーエージ(OA)枠の使い方に注目が集まっていますが、OAは使わなくていいのではないか、と思います。この世代の選手たちで五輪を戦い、多くのことを経験しながらひと回りもふた回りも成長し、ひとりでも多くの選手がA代表に選ばれていってもらいたいものです。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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