第206回 “美味しいところ”を知っている右SB濃野

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 5月31日現在、僕の古巣である鹿島アントラーズはリーグ戦2位(10勝2分け4敗、勝ち点32)につけています。首位を走る町田ゼルビアとの勝ち点差は3。このまま好調を維持してほしいものです。今月は、ランコ・ポポヴィッチ監督のもと、中心メンバーとなりつつあるMF名古新太郎やDF濃野公人らを中心に語りましょう。

 

 名古と鈴木のコンビ

 

 名古は与えられたチャンスを掴みましたね。FW鈴木優磨とのコンビネーションも良好です。ふたりの動きを見ているとかつてのアントラーズのFWの動き方と重なって見える部分があります。縦関係の2トップで、片方が空けたスペースをどちらかがうまく使っています。

 

 シンプルながらも絶対的なセオリーを徹底している気がします。ジーコがFWに要求していたようなシンプルながら、止めようがない動きだしです。センターバックがマークしづらいようにサイドにFWが流れてみたり、と。物理的に自分はゴールから離れますが、そこを味方(もしくは相方)のために空けてあげる。名古と鈴木は息が合っていますね。名古は前を向いてプレーできる時間が増え、余裕を持ってプレーできています。自分の居場所を見つけた感があります。

 

 大卒ルーキー・濃野の働きも見事。守備時には無駄に飛び込まず、自分の間合いを持っている選手。右サイドバックながら得点も取れる(5/31時点で4得点)。学生時代は元々、FWだったようです。今のポジションから最高の視野を確保し、自分の前のスペースを使うのがうまいですよ。相手ゴール前にスルスルと入っていくタイミングも秀逸です。ゴールのかたちをイメージできているし、“美味しいところ”を知っているようです(笑)。スペースの埋め方、空け方、使い方のセンスの良さを濃野からは感じます。

 

 チーム全体で結果が出ているうちに、「自分たちはこうやればうまくいくんだ」というゲームプランを固めるべきです。良い例が町田でしょう。黒田剛監督のもと「こういうサッカーをやるんだ」と見るからにプランが明確です。わかっていてもやられてしまう。迷いなくポジションを取り、明確な狙いがあり、それを実行されるとかなり厄介なものです。

 

 ジーコスピリット

 

 6月、7月……。アントラーズがいつももたつく季節です(泣)。今年はそんなことがないように、ポポヴィッチ監督には成功体験を積み重ねて盤石なゲームプランを構築してもらいましょう。

 

 今、うまくいっている要因の1つに全選手の自己犠牲の精神があげられます。自分が点を取りたいといった欲を捨て、チームのためにスペースを空け、敵を引き付けている。自分のスタミナを削ってでも献身的に守備をしています。誰かひとりがエゴを出すと途端に崩れてしまう、もろさもあります。鈴木あたりがしっかりと全体を見渡し、リーダーシップを執って常にチームの勝利のため、献身的に戦ってほしい。こうなると、結局はいつもジーコスピリット(献身、誠実、尊重)に立ち返ります。

 

 思えばこれって、サッカーだけじゃなく一般社会、仕事においても通ずることだよなぁと思う今日この頃です。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。

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