日本の23歳以下代表が、無事にパリ五輪出場権を勝ち取った。まずは、大変な重圧の中、目標を達成したチームに賛辞を贈りたい。

 

 1次リーグで韓国に敗れたことで、一時は予選突破自体を危惧する声もあった。大岩監督に対する逆風も相当なものがあった。ただ、改めて振り返ってみると、彼がチームのピークを準決勝に置いていたことがよくわかる。

 

 仮にイラクを圧倒したユニットが、韓国戦にも出場していたとする。勝利をつかむ確率は、格段にあがっていたことだろう。だが、その代償としてチームには疲労が残り、何より、これからの対戦相手に手の内をさらしてしまうことにつながった。

 

 イラクを率いたシナイシェル監督は、かつて日本の井原、韓国の洪明甫と並ぶアジアでも最高級のCBだったが、今回の敗戦を受けて、母国では厳しい批判にさらされているという。特に、ほぼ何もできなかった前半の戦いぶりが国民の怒りを誘っているようだ。

 

 だが、シナイシェル監督からすると、日本がどういうメンバーでどういう戦い方をしてくれるのか、読みきれなかった部分はあろう。これは、ベストは尽くしながらもすべてをさらすことはしなかった、大岩監督の勝利でもある。

 

 実際、日本のやり方を把握した後半、イラクはそれまでの45分とは違って五分に近い戦いを挑んできた。前半で退いてしまった巨漢FWが残っていたら、日本はさらに苦しい戦いを強いられたかもしれない。

 

 今予選では1次リーグでオーストラリアが消え、準々決勝では韓国、サウジが消えた。中東、極東、オーストラリアの3極で回ってきたアジアのサッカーは、今後、東南アジアを加えた群雄割拠の時代に突入する。しばらくすれば、大国インドも台頭してくるだろう。以前とは比較にならないほど厳しい予選を勝ち抜いたことで、日本の選手は貴重な経験値を手に入れた。

 

 その中でもわたしが大きいと感じるのは、カタールとの戦いを経験できたことである。特に、サイドからのクロスを一発で決められた同点弾は、Jリーグの感覚からすると、まず決められることはない形だった。クロスが上がった段階で、日本の守備陣にはさしたる危機感もなかったことだろう。

 

 だが、レベルの高い国際大会においては、Jリーグでは大丈夫な形が、まるで大丈夫ではないことがある。そのことを、CBの高井は、木村は身をもって体験することができた。

 

 おそらく、今後の戦いでは、彼らの危機察知センサーはより鋭敏に反応するようになるだろう。いままでであれば備えをしようとすら思わなかった状況から、彼らは失点のにおいを嗅ぎ取るようになる。そして、備えがあれば、やられる確率は間違いなく低くなる。この感覚こそが、パリ五輪へ向けての最大の収穫となる。

 

 決勝の相手はウズベキスタン。ここまで14得点、失点0できている彼らは強い。時間帯によっては、主導権を握られることも考えられる。

 

 ただ、準決勝の直後、ウズベキスタンの選手たちは喜びを爆発させていた。彼らにとっては初の五輪出場。気持ちはわかる。だが、激しすぎる喜びの発露は、特にチームを蝕むことがある。一方、決勝進出を決めた日本選手が見せた喜びには、十分な抑制が利いていた。3日の決勝では、日本の若い選手たちが歴史の重みを見せつけてくれることを期待したい。

 

<この原稿は24年5月2日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>


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