4年目を迎えた交流戦は、最終日にまで優勝争いがもつれこむ熱戦が繰り広げられた結果、福岡ソフトバンクが初優勝を飾りました。これによって交流戦前にはリーグ4位、借金2を抱えていたソフトバンクは、現在3位に浮上し、貯金4で首位・西武と2.5ゲーム差というところまで追い上げています。セ・リーグでも巨人、広島、東京ヤクルトの3位争いが激しさを増しており、27日から再スタートするレギュラーシーズンが、ますます楽しみになってきました。
 さて、ここまで最も躍進ぶりが目立つのは、球団設立4年目にして初のプレイオフ進出を狙う東北楽天です。個人成績を見ても、投打ともに上位に楽天の選手の名が随所に見られ、初めて最下位から抜け出した昨季以上の強さが見てとれます。

 こうしたチームの勢いに乗って、楽天に移籍してきて以来、最高のピッチングを見せてくれているのが岩隈久志です。25日現在、セ・パ両リーグトップの11勝(2敗)、防御率もダルビッシュ有(北海道日本ハム)に次ぐ1.87をマークしています。

 ケガで不調に陥っていた昨季までとの一番の違いはバランスのよさですね。
岩隈は移籍以来、肩や背中の痛みに悩まされ、それらをカバーしながらのピッチングをしていました。そのため、上体だけが先に前に突っ込んでしまい、バランスを崩していました。自分でもフォームが安定せず、しっくりいってなかったと思います。ストライクとボールがはっきりしてしまい、打ち込まれるケースがよく見らたのはそのせいです。

 しかし、今季は体の調子もいいのでしょう。軸足がぶれずにしっかりとマウンド上で立つことができていますので、腕が体の前で振れています。だからこそ、自分の思ったところにボールがいっているのです。バランスよく体を使い、腕が思いっきり振れていることで、キレのいいストレートが低めにコントロールされています。このストレートがよくなったことで、変化球がいかされ、投球の幅が広がっているのです。

 もともと日本球界を代表するピッチャーですから、「よくなった」というよりは、「本来の姿に戻った」と言うべきでしょうね。現在の岩隈は欠点を探すほうが難しいくらいです。故障さえなければ、近鉄最後の年となった2004年以来の最多勝獲得も夢ではありません。

 この岩隈にひけをとらないほど素晴しいピッチングを見せてくれているのが、セ・リーグ最多の10勝をマークしているコルビー・ルイス(広島)です。彼は非常に真面目で研究熱心のようですね。

 日本で成功する外国人選手はそのほとんどが、日本野球に早く慣れようと自分なりの工夫を凝らしています。セス・グライシンガー(巨人)がイニングごとにベンチでメモを取ることは有名ですが、タフィ・ローズ(オリックス)も大振りしているように見えて、実は打席ごとにメモを取っているんです。近鉄時代、チームメイトだったラルフ・ブライアントもそうだったんですよ。

 外国人選手の中にはワガママを言って、「オレには必要ないよ」とばかりに試合前のミーティングに出席しない選手もいます。プライドがそうさせるのかもしれません。しかし、それでは首脳陣やチームメイトとのコミュニケーションを図ることができませんし、自分のチームがどんな野球をしようとして、どんな作戦をたてているのかを理解することはできません。自分が力を発揮し、チームの勝利に貢献するためにできることは全てやる。それこそがプロとしてあるべき姿です。

 メジャーリーグでドラフト1巡目に指名され、5年目には2ケタ勝利をマークしたほどのルイスですが、彼は決してチームの調和を乱すことはしません。実力もさることながら、人間的にもまさにプロフェッショナルな選手なのです。

 彼も岩隈同様、軸足で立った時の姿が実にきれいです。ムダな動きが一切なく、バランスの取れたフォームをしています。投げ終わった後、一塁方向に体が流れていますが、これは特に問題はありません。日本では「投げ終わったら、投手も野手の一人」という考えから、投げ終わった後の体がキャッチャー方向に向いていることが理想とされています。しかし、ピッチャーはあくまでもピッチングが最優先。守備のためにフォームを変えるのでは本末転倒です。

 また、一塁方向に体が流れてしまうと、ボールに伝わる力も流れてしまうことからも、よくないとされています。これは、確かにそうです。しかし、ルイスの場合は投げ切った後に一塁方向に流れていますので、ボールにはしっかりと力が伝わっているのです。

 ルイスはメジャー方式で、中4日、1回の登板では100球前後の球数が目安とされています。それでも7回、多いときには8回まで投げています。これはコントロールのよさはもちろんですが、早いカウントから勝負にいっている証拠でもあります。初球、あるいは1ストライクからでも「ここは勝負どころだ」と思えば、ストライクを取りにいく。その確かな技術と勇気があるからこそ、球数を抑えることができるのです。

 ルイスにとっても最大の敵はケガ。これさえなければ、15勝はかたいでしょう。1年目にして最多勝、最多奪三振の2冠に輝ける可能性も十分にあります。

 岩隈、ルイスともに03年に井川慶(ヤンキース)と斉藤和巳(ソフトバンク)がマークして以来の20勝投手になってくれることが期待されます。そのためにも、楽天、広島の打線が奮起してくれることを願いたいですね。

 


佐野 慈紀(さの・しげき)プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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