第7回「部活の地域移行は必然」ゲスト島田慎二氏
二宮清純: 国内男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」がスタートして、8季目を終えました。2020年に島田さんはチェアマンに就任。昨季は過去最多450万人を超える入場者数を記録しました。
島田慎二: 前年が322万人で、2021-22シーズンは157万人。過去2シーズンはコロナ禍の影響を受けたとはいえ、この2年で大きく飛躍することができました。昨季は23年W杯で日本代表がパリオリンピック出場権を獲得した盛り上がりに乗れたことに加え、クラブ・アリーナを軸に地域が発展するための審査基準を設定した『B.革新』の影響も大きかったと思います。新たなライセンスを交付する判定対象のシーズンだったため、各クラブが入場者数を増やさないといけないという意識がこれまで以上に強かった。さらには、佐賀や群馬、沖縄など新しいアリーナができたことも大きかったと思います。
二宮: 昨季は広島ドラゴンフライズが2連覇を目指す琉球ゴールデンキングスを2勝1敗で破り、初優勝しました。これはちょっとしたサプライズでした。
島田: ワイルドカード(日本生命 B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2023-24 (以下、チャンピオンシップ) に進む各地区上位2チーム以外で、勝率の高い2チーム)から優勝し、かつB2から昇格したチームとしては初の優勝でした。エースガードをケガで欠く中、チャンピオンシップで試合を重ねるごとにチームが成長していくような雰囲気でした。戦力が均衡し、どの地域のクラブでも優勝を目指せる競争力がリーグとしては理想なので、その一端を示せたシーズンだったと思っています。
二宮: リーフラスの行うスポーツスクール事業では、日本代表の活躍もあって、バスケットボール人気も高まっているようですね。
伊藤清隆: そうですね。会員数では近年野球を抜きました。このまま順調に伸びていけば、1位のサッカーを抜くかもしれません。我々の感覚としてもB.LEAGUEの活性化に比例して、バスケットボールの競技者人口が増えてきていると感じます。
二宮: 佐賀や群馬、沖縄にできた新アリーナはNBAのアリーナを参考に造られました。見やすさやエンターテインメント性を重視する一方で、アリーナは災害大国日本において、防災施設としての役割も果たしています。
島田: 新アリーナの建設は、スポーツ業界、バスケットボール業界の発展だけでなく、社会性も包含されていないと理解を得られません。自治体が資金を捻出する大義名分としては市民・県民を守る、あるいはシェルターにも転換できるということ。普段はエンターテインメントやスポーツに貢献し、いざとなったら市民・県民を保護することができるという運用計画です。沖縄アリーナは昨年台風がきた時の避難所として機能しました。
二宮: 体育館からアリーナへ。装いも随分変わってきましたね。
伊藤: やはり子どもたちのスクールにおいても、B.LEAGUEの選手たちが使っているアリーナのような大きな施設で試合ができるとなれば、練習への気持ちの入り方も全然違ってきます。その意味でハード面が整備されてきていることは、スクール事業にとっても大変役立っています。
二宮: これまでの日本は、建設計画はあっても運営計画がなかった。建てるだけ建てて、あとは赤字。こういう施設が多かった。その点、B.LEAGUEのアリーナは採算が取れるよう、運営面でも計画がしっかりされていますね。
島田: そうですね。単なる競技で使用するだけの施設ではありません。魅せるため、お客さんを満足させるための造りになっている。運営側の観点も鑑みて造られているという点では進化していると言えます。また建設費、運営費を捻出するためには、ネーミングライツもカギを握ります。2025-26シーズンより、名古屋ダイヤモンドドルフィンズのホームアリーナとなる「愛知県新体育館」の命名権はイギリスのオンライン金融サービス業「IGグループ」が取得しました。契約は10年間。契約金は非公表ですが、年間のランニングコストをペイできる額だと言われています。稼ぐことを前提に造られたアリーナは、ネーミングライツでも高値が付く。結果、事業採算性が高まるという好循環を生みます。
全都道府県制覇が目標
二宮: かつてはビジネスに対する理解が少なく、体育館でモノを売ったり、飲食をしたりすることに否定的な意見もありました。
島田: そこは徐々に変わってきていると思いますね。B.LEAGUEの琉球ゴールデンキングスができた時、「バスケットボールで、カネとるの?」と関係者に言われて苦労したという有名な話があります。それが今では1万円のチケットすら売れる時代になってきた。かつては勉学に対し、親御さんはおカネを使いますが、スポーツに投資するという観点が弱かった。その潮目も徐々に変わってきて、民間が活用しやすい状況になりつつあるな、との実感はありますね。
伊藤: スポーツをすることによって人間力が育まれることが、世の中にもかなり浸透してきたように思います。それに対し、きちんとおカネを出す親御さんたちも増えてきたように感じます。
二宮: リーフラスは現在、小中学校の部活指導を41の自治体、累計で約1500校から受託しています。部活動の民営化、地域移行についての島田さんの意見は?
島田: 私は大賛成です。現在、B.LEAGUEは41の都道府県に計56クラブがある。2028年までに全都道府県制覇を目指しています。部活の地域移行を考えた時に、地域格差があっては“バスケットボール弱者”を生み出してしまいかねないからです。それはフェアじゃないということで、リーグとしては地域創生にも取り組んでいる。少子化の影響を受け、1つの学校ではチームを組めなくなってきている。部活の地域移行は必然ですし、B.LEAGUEとしても、きちんとフォローしていきたいと考えています。
二宮: 島田さんはチェアマンに就任した年に「暴力・暴言・ハラスメント撲滅プロジェクト」を立ち上げました。
島田: バスケットボール界では暴力、暴言、ハラスメントというトラブルがありました。それでホットラインをつくり、選手たちが声を上げやすい環境づくりを進めました。選手、スタッフ、関係者からの報告にリーグが対応し、問題があった場合はチームならびに指導者にも制裁を科している。ようやくバスケットボール界にも、リーグ側が本気だということも浸透してきて、だいぶトラブルは減ってきていると思います。
二宮: どこまでが暴言なのか、指導の範疇なのかは線引きが難しい。とはいえ、ある程度の指標は絶対に必要ですね。
島田: おっしゃる通りです。通報が届いた時、通報者にヒアリングをし、当然本人にも話を聞きます。一つひとつの事案に対し、時間はかかってしまいますが、リーグとしての答えを出さなければいけません。弁護士など専門家を入れて、対応しています。
伊藤: 我々は東京都港区、品川区、千代田区における中学校の部活を受託しております。当然、指導員については我々の管理下にあり、無茶な指導はできない。部活動の民営化は、暴力暴言ハラスメントをなくすためにも必要です。そのためにはB.LEAGUEのチームが小学校内にスクールをつくり、運営するというのも一案ですね。
島田: B.LEAGUE各クラブのスクールは怒らない指導等、各クラブの理念に基づいたスクール運営が行われています。上を目指すユースチームなどはスクールの育成とは一線を画していますが、試合会場で、行き過ぎた指導をしている場面があれば、リーグや協会から指導が入ることもあります。
伊藤: 結局、暴言を吐いたり、行き過ぎた指導をするチームに行く背景には、他に行くところがなかったという側面があります。我々を含め、民間のスクールが各地域にあれば、チームが合わなかった場合は移ればいい。受け皿がいくつもあることで、子どもたちに選択肢を与えられることが大切だと思っています。また指導者側の働き口が増えれば、選手のセカンドキャリアにも繋がります。部活動の地域移行が進むことで、教育の現場も変わってきています。それは負担が減る教員にとっても、専門家に指導を受けられる生徒にとっても大変良いことだと思います。これからも頑張っていきます!
<島田慎二(しまだ・しんじ)プロフィール>
1970年、新潟県出身。93年に日本大学卒業後、株式会社マップインターナショナル(現エイチ・アイ・エス)に入社。旅行事業やコンサルト事業で成功を収めた後、12年2月に千葉ジェッツの運営会社である株式会社ASPE(現・千葉ジェッツふなばし)の代表取締役に就任した。経営難のクラブを再建し、リーグ屈指の人気クラブへと変貌させた。17年にB.LEAGUEの副チェアマンに就任。20年、同チェアマン(代表理事CEO)に就いた。日本バスケットボール協会副会長も兼務し、「バスケで日本を元気に」を理念に、地方創生に尽力している。著書『千葉ジェッツの奇跡 Bリーグ集客ナンバー1クラブの秘密』(角川書店)がある。
<伊藤清隆(いとう・きよたか)プロフィール>
1963年、愛知県出身。琉球大学教育学部卒。2001年、スポーツ&ソーシャルビジネスにより、社会課題の永続的解決を目指すリーフラス株式会社を設立し、代表取締役に就任(現職)。創業時より、スポーツ指導にありがちな体罰や暴言、非科学的指導など、所謂「スポーツ根性主義」を否定。非認知能力の向上をはかる「認めて、褒めて、励まし、勇気づける」指導と部活動改革の重要性を提唱。子ども向けスポーツスクール会員数と部活動支援事業受託数(累計)は、2年連続国内No.1(※1)の実績を誇る(2023年12月現在)。社外活動として、スポーツ産業推進協議会代表者、経済産業省 地域×スポーツクラブ産業研究会委員、日本民間教育協議会正会員、教育立国推進協議会発起人、一般社団法人日本経済団体連合会 教育・大学改革推進委員ほか。
<二宮清純(にのみや・せいじゅん)プロフィール>
1960年、愛媛県出身。明治大学大学院博士前期課程修了。同後期課程単位取得。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。経済産業省「地域×スポーツクラブ産業研究会」委員。認定NPO法人健康都市活動支援機構理事。『スポーツ名勝負物語』(講談社現代新書)『勝者の思考法』(PHP新書)『プロ野球“衝撃の昭和史”』(文春新書)『変われない組織は亡びる』(河野太郎議員との共著・祥伝社新書)『歩を「と金」に変える人材活用術』(羽生善治氏との共著・廣済堂出版)など著書多数。新刊『森保一の決める技法』(幻冬舎新書)が発売中。
※1
*スポーツスクール 会員数 2年連続国内No.1
・スポーツ施設を保有しない子ども向けスポーツスクール企業売上高上位3社の会員数で比較
・会員数の定義として、会員が同種目・異種目に関わらず、複数のスクールに通う場合はスクール数と同数とする。
*スポーツスクール スクール数 2年連続国内No.1
・スポーツ施設を保有しない子ども向けスポーツスクール企業売上高上位3社の会員数で比較
・キッズ・小学生で分かれている場合は、それぞれを1スクールとする。
*部活動支援受託校数の累計 2年連続国内No.1
・部活動支援を行っている企業売上高上位2社において、部活動支援を開始してからこれまでの累計受託校数で比較
・年度が変わって契約を更新した場合は、同校でも年度ごとに1校とする。
株式会社 東京商工リサーチ調べ(2023年12月時点)