株式会社WOWOWの田中晃 代表取締役 会長執行役員は、長きにわたってパラスポーツ中継に力を注いできた。その縁で2020年に一般社団法人日本車いすバスケットボール連盟の理事に就き、2023年には会長に就任。「パラスポーツを通じ、共生社会の実現を目指す」田中会長に話を訊いた。

 

 

伊藤数子: 昨年6月、田中さんは日本車いすバスケットボール連盟(JWBF)の会長に就任しました。先日のパリパラリンピック最終予選では女子日本代表が2大会連続の出場を決めました。おめでとうございます。

田中晃: ありがとうございます。パリ大会は東京大会と比べて出場国・地域数が減り(男子は12から8、女子は10から8)、その分アジア・オセアニアを勝ち抜くことが大変になってきていました。男子は予選で敗れ、惜しくも出場権を逃していたので、女子がパリ行きの切符を掴むことができてホッとしています。

 

二宮清純: 前回銀メダルの男子が出場できないのは残念でした。

田中: 男子は東京パラリンピックで銀メダル、昨年のアジアパラ競技大会では金メダルを獲ったことで他国も今まで以上に日本を研究してきました。今回はその厳しいマークを跳ね返す力が足りなかったのかもしれません。

 

二宮: 2020年からJWBFの理事に就任し、現在は会長職に就いています。そもそも車いすバスケットボールに関わるようになったきっかけは?

田中: パラスポーツ中継に最初に取り組んだ競技が、車いすバスケットボールでした。なぜ車いすバスケットボールだったかと言うと、この競技を観ていて障がいのある人がするスポーツという印象を全く受けなかったからです。ひとつのスポーツとして、スピーディーで、かつ激しさもあり、とても魅力的でした。当時勤めていたスカパー!で、2008年に日本選手権を中継したことから、パラスポーツ、車いすバスケットボールとの縁がスタートしました。

 

伊藤: JWBFと関わるようになったきっかけは?

田中: 2015年にWOWOWに来てからも一番関わりが深かったパラスポーツが車いすバスケットボールということもあり、2020年にJWBFの方から「会長になってください」と頼まれました。その時は一度お断りさせていただきましたが、理事というかたちで連盟の中に入りました。

 

 子どもたちが社会を変える

 

 

二宮: 激務の中、一度は断った会長職に、あえて就いた理由は?

田中: 私が理事になった頃、JWBF内で「未来プロジェクト」という改革をスタートしました。同プロジェクトで、全国の10ブロックから意欲のあるメンバーを集め、これからの10年を真剣に考えようと、議論を重ねてきました。そこで策定したのが3つのビジョン。1つ目が車いすバスケットボールの普及と競技力向上を図ること。2つ目が車いすバスケットボールを通じて寛容な社会づくりに貢献すること。そして3つ目が子どもたちへのアプローチを通じ、地域から共生社会を実現していくことに寄与しようというものです。その後、これらのビジョンを実行するフェーズに入りました。それで昨年の理事の改選期に改めてオファーをいただき、この「未来プロジェクト」が自走できるようになるまでの2年間を引き受けようと思い、決断しました。

 

二宮: 3つのビジョンのうち、2つ目の「寛容な社会づくり」。この寛容という言葉に込めた思いは?

田中: 多様性とインクルージョンですね。多様な価値を認め合う社会、みんな違ってみんないいんだという社会。意見や価値観、体格や能力などが違う人たちに対するリスペクトがあれば、寛容な社会を育むことに繋がるはずだと考えました。なぜ、あえて「寛容」という言葉を用いたかというと、今の時代は、どんどん不寛容になっている。それは戦争ということに限らず、インターネット社会が不寛容さを、さらに助長している気がします。社会がものすごく不寛容な方向に向かっているからこそ、パラスポーツが果たす役割は大きいという意味を込めて「寛容な社会づくり」としました。

 

二宮: 確かにおっしゃる通りですね。ネットなどを見ていても、不寛容な意見が多く、それが社会に分断をもたらせているとも言えます。

田中: だからこそ「未来プロジェクト」のメンバーは多様な人たちで構成しています。ほとんどが障がいがあって、地域で活動している人たちです。もっと混ざり合っていること自体が当たり前のような社会であるべきだと考えています。

 

二宮: 3つ目の「地域社会の発展」については私も大賛成です。今の競技団体を見ていると、中央集権的なところが多分にある。強化至上主義と言うか、一極集中でスポーツも地方組織が疲弊している。そこで地域の子どもたちにアプローチするというのは、とても未来志向のように思えます。

田中: ありがとうございます。子どもたちへのアプローチを通じて、地域に住む人たちの誰もが輝く地域社会をつくるというのが、3つのビジョンのうちで一番大切にしていることです。社会を変えるためには子どもたちの力が絶対に必要。20年後、その先の社会をつくっていくのは今の子どもたちですからね。加えてパラスポーツは地域コンテンツとして非常に有効なものだと考えています。地域において障がいのある人たちがリハビリではなく、豊かな人生を送るための手段のひとつがパラスポーツだと思うんです。子どもと地域は社会を変えていくために絶対に重要だと考え、今後も力を入れていきたいと思っています。

 

(後編につづく)

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田中晃(たなか・あきら)プロフィール>

株式会社WOWOW代表取締役 会長執行役員。1954年、長野県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年、日本テレビ放送網株式会社に入社。箱根駅伝や世界陸上、サッカーのトヨタカップなど多くのスポーツ中継を指揮した。さらに民放連スポーツ編成部会幹事として、オリンピックやサッカーW杯などの放送を統括。コンテンツ事業推進部長、編成局編成部長、メディア戦略局次長を歴任する。2005年、株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(現・スカパーJSAT株式会社)執行役員常務となり、同社執行役員専務、放送事業本部長を務めるなどパラスポーツの中継にも力を注いだ。パラスポーツとの関わりは2015年6月に株式会社WOWOW代表取締役社長に就任後も継続。今年4月から現職に。2020年6月に一般社団法人日本車いすバスケットボール連盟理事に就き、2023年6月からは会長に就任した。

 

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