二宮清純: 画期的な試みとして、日本車いすバスケットボール連盟(JBWF)は、今年の天皇杯日本車いすバスケットボール選手権大会(天皇杯)を有料開催しました。

田中晃: 他団体だとブラインドサッカーがいち早く有料開催に踏み切っていますね。我々車いすバスケットボールは、去年の天皇杯から有料開催を実施しています。

 

二宮: 2日間で約6000人を動員したそうですね。大成功です。

田中: はい。有料にすると会場の賃貸料が高くなるため、収支的にプラスというわけではありません。それでも、スポーツとしての価値は高まっていくと思うんです。なぜならお客さんのエンゲージメントが違います。選手の意識も高まります。事業イベントとしても成長します。例えば今年は赤字でしたが、それを埋めるためにはどうしたらいいかを次は工夫できます。もっとお客さんを増やすためにはどうするか、プロモーションやファンサービスは何ができるか、お客さんが求めるのはどんなグッズか、チケットの価格を変えようか、などなどいろいろ次に繋がる意見が出てきています。

 

伊藤数子: 興行収入だけでは測れない価値があるわけですね。

田中: その通りです。チケットを購入していただいたお客さんにID登録をしてもらい、今後の繋がりをつくっていくこともできますからね。

 

伊藤: 天皇杯は2019年から障がいの有無に関わらず選手登録できるようになりました(※健常者の持ち点は4.5)。これも画期的な試みですね。

田中: 天皇杯は健常者に加え、女子選手も参加できるインクルーシブな大会になっています。そのレギュレーションに変わった大会を見た時、最初は違和感がありました。“パラリンピックや国際ルールと違うレギュレーションでやってどうするんだろう”と。しかし現在、70を超える登録チーム、700人を超える会員がいますが、地方の多くのクラブチームは人数が少なく、障がいのある人だけで持ち点ルールを構成する国際基準のレギュレーションでは大会に出られないんです。

 

二宮: 多くのクラブチームに門戸を開くことにこそ価値があると。

田中: そうですね。今改めて大会制度を設計し直しています。その中で天皇杯の位置付けは、持ち点ルールの中で、健常者も女子も参加できる大会、日本中のクラブチームが参加できる大会にしようと意見が集約されました。何のために各クラブチームが全国にあるのか。それは地域のクラブチームとして、地域の人たちの居場所になることです。地域への貢献面を考えた時に、地域のクラブチームを存続させていくことの方が優先度が高い。サッカーJリーグ初代チェアマンの川淵三郎さんの「日本代表が世界で勝つことよりも、日本社会の中でスポーツが多くの人に愛され、誰もがスポーツを自分の人生の一部と考えるような国にしたい」という思いに近い感覚ですね。社会に役立つ方が重要なんだ、と。そして裾野が広がることで、日本代表という頂点が高くなることはサッカーが示しました。

 

「WHO I AMプロジェクト」

 

伊藤: 田中さんが代表取締役 会長執行役員を務めるWOWOWはノーバリアゲームズを主催しています。2019年にスタートした性別・年齢・国籍・障がいの有無を問わず誰もが楽しめるユニバーサルスポーツイベントです。

田中: ノーバリアゲームズはインクルーシブな社会とは、どんなものかを可視化できるイベントだと自負しています。口で、障がいの有無に関係なく、老若男女みんなで運動会やると言っても、理解されませんが、実際に参加したり、観戦していただいた方からは「面白かった」と好評です。インクルーシブ社会が想像できるんですね。パラスポーツサイドから社会に出て行き、その魅力や価値を訴える。そして社会に対する成果を可視化していくことが必要だと痛感しています。これまでのように「パラスポーツを理解してください」という文脈で進めていては、ダメだと考えています。

 

伊藤: 2022年からリニューアルされた「WHO I AMプロジェクト」も、社会に出ていくというメッセージでしょうか。

田中: はい。元々はIPC(国際パラリンピック委員会)との共同プロジェクトとして、2016年にスタートした世界最高峰のパラアスリートを特集するドキュメンタリー番組でした。ただ番組をつくるだけではもったいない。第1回目を観た時に画に力があり、“これはもっと使えるんじゃないか”と思いました。例えば「WHO I AM」の上映会とパラスポーツ体験会をセットにする。あるいは選手を海外から呼び、イベントをしたり、選手が学校訪問をして、子どもたちとスポーツをする。「WHO I AM」の番組放送は入り口に過ぎず、本来は活動が主、と位置付けています。その道筋から、2019年のノーバリアゲームズ開催に繋がっていきました。

 

二宮: 田中さんを見ていると、いい意味でテレビマンの枠を大幅に超えている。業界内に活動が収まっている人が多い中、田中さんは業界を超えて活動している。何かご自身に課したミッションがあるのでしょうか?

田中: 理屈なんてものは後付けですよ。「WHO I AMプロジェクト」を進めているのは、我々がエンターテインメントを生業としている会社だからです。豊かなエンターテインメント文化は、多様な価値が尊重される社会でなければ育たない。これは確信しています。人と違う意見や、表現を尊重することをベースにエンターテインメント文化は成り立つと思っています。「WHO I AMプロジェクト」を通じて、パラスポーツの魅力や価値発信し続けていくことが、結果として多様な文化を育むことに繋がると思っています。

 

(おわり)

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田中晃(たなか・あきら)プロフィール>

株式会社WOWOW代表取締役 会長執行役員。1954年、長野県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年、日本テレビ放送網株式会社に入社。箱根駅伝や世界陸上、サッカーのトヨタカップなど多くのスポーツ中継を指揮した。さらに民放連スポーツ編成部会幹事として、オリンピックやサッカーW杯などの放送を統括。コンテンツ事業推進部長、編成局編成部長、メディア戦略局次長を歴任する。2005年、株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(現・スカパーJSAT株式会社)執行役員常務となり、同社執行役員専務、放送事業本部長を務めるなどパラスポーツの中継にも力を注いだ。パラスポーツとの関わりは2015年6月に株式会社WOWOW代表取締役社長に就任後も継続。今年4月から現職に。2020年6月に一般社団法人日本車いすバスケットボール連盟理事に就き、2023年6月からは会長に就任した。

 

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