清々しい光景だった。
 6月15日、横浜アリーナ。第4試合終了後、休憩明けのリング上で『DREAMライト(70キロ以下)級グランプリ・トーナメント』準決勝戦の公開抽選が行われた。この日の第1試合で永田克彦を破りベスト4入りを最後に決めた青木真也、川尻達也、宇野薫、そしてエディ・アルバレスの代役としてDREAMの笹原圭一プロデューサーがロープをくぐって登場。箱の中に入っている封筒を青木、川尻、宇野の順(アルファベット順)に引く。その封筒の中にある紙に記されている番号によって7.21大阪城ホール大会の組み合わせが決まった。
 エディ・アルバレス(エリートXC)VS川尻達也(T-BLOOD)
 青木真也(パラエストラ東京)VS宇野薫(和術慧舟會東京本部)
 
 この2カードの決定がアナウンスされると、会場内には緊張感が漂った後に、期待感に満ちた拍手の音が溢れた。
『PRIDE』で、このような場面が現出されることは無かった。『K-1』でも無い。
『K-1グランプリ』においては開幕戦の後に、決勝トーナメントの組み合わせを決めるイベントが催されてきた。抽選で順番を決め、1番を引いた選手が、まずトーナメントの矢倉に入る。続いて2番目、3番目の選手が好きな場所を選んで入っていく。2番目の選手が、1番目の選手と闘いたいならば、その隣に立てば自動的にカードが決定する仕組みだ。1番目の選手と闘うのが嫌なら別の場所に立てばよい。だが、これは完全公開抽選などと呼べる代物ではなかった。抽選は、宝くじの当選番号の決定と同じで、すべてが運……結果は天に委ねられたものでなければいけない。ファイターの意思で相手を決めること自体、抽選ではない。また、疑えばきりがないが、クジの順番にかかわらず、選ぶ枠を、主催者がファイターたちに指示しておくことも可能だ。そんな盲点のあるシステムは「完全抽選」とは呼べない。

 今回のDREAMの「完全抽選」の実施は英断だ。これまでトーナメントの組み合わせは常に主催団体が決めてきた。目先の興行を盛り上げるためのカードを編成し、それに従いファイターたちは闘ってきたのだ。
「ファンの求めるカードを提供したい」
 主催者は、そう口にしてきた。
 耳障りは悪くない言葉だが、そのやり方は興行の論理に片寄り過ぎている。つまり競技性からは、かけ離れていたと言わざるを得ない。ファンが望むカードだからといって、1回戦で優勝候補の強豪同士を潰し合わせる。そんなやり方で実施されるトーナメントの順位で正確な実力測定などできるはずがない。口にこそ出さないが、選手たちの中には主催者が一方的にトーナメントのカードを決めることに不満を持つ者もいた。
 たとえば高校野球において、夏の甲子園、春の甲子園の組み合わせを主催である朝日新聞や毎日新聞が、盛り上がるように……と勝手に決めたならばどうなるだろう。これは、プロかアマかの問題では無い。プロは会場の演出等のソフト部分で頑張る必要はある。だが、ハード部である競技性に手を入れてはならない。スポーツでも、リアルファイトでもなくなる危険性を帯びてしまうからだ。

 DREAMが公開完全抽選を選択したことに拍手を贈りたい。これでファイターたちは気分良く闘えるだろう。いかなる結果にも言い訳など抱かずに済む。抽選現場を目にしたことで観る者も期待を高めることができた。
 緊張感が日に日に増す。
 7月21日、大阪城ホール『DREAM5』に飛躍の予感――。


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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜(文春文庫PLUS)』ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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