MLB2008年シーズンもほぼ折り返し地点を迎え、球界の祭典・オールスターゲームが間近に迫っている。今年の球宴の舞台となるのは最終年を迎えた殿堂・ヤンキースタジアム。まさに夢舞台と言える歴史的オールスターに、現時点で4人のジャパニーズの名前が出場選手候補として挙がっている。
 この中から何人が実際に選ばれるかは分からないが、候補とされるだけでも名誉なこと。そこで今回は、シーズン前半でそれぞれ存在感をみせた4人の軌跡を振り返っていきたい。
(写真:メジャーを代表するスーパースターとなったイチローの球宴出場は確実だが、今季ここまではやや精彩を欠いていたのも事実)
 イチロー 打率.305 3本塁打 33盗塁

 ファン投票ではアリーグ外野手部門の3位につけており、このままいけば先発メンバーとなることが濃厚。今年も選ばれればマリナーズ入団以来8年連続出場となり、メジャーを代表するスーパースターのキャリアにまた勲章が加わる。

 ただ今季のイチローの打撃の調子は決して本来のものとは言えず、打率も信じ難いことに6月末の時点で3割以下。現在の成績では、高レベルなアリーグ外野陣の中で先発出場には値しないとの声も多い。最近ではアメリカ最大手の「スポーツイラストレイテッド」誌のウェブサイト上で、「チームより自身のスタイル重視」「トレード要員」「昨季に監督解任の引き金を引いた」などと散々に叩かれた。

 もちろん勝てないチーム内でベストプレーヤーが批判を浴びるのは当然だが、イチローの立場も一時のようにアンタッチャブルではなくなったことだけは確か。オールスターを挟み成績が向上しなかったときには、トレードの噂もさらに増えそうだ。

 ファン投票で4位以下に落ちたとしてもマリナーズ内には他にめぼしい候補がいないため、いずれにしてもイチローの球宴出場自体は確実。MVPを獲得した昨季同様の大活躍で、後半戦の飛躍に繋げたいところだろう。

 福留孝介 打率.290 6本塁打 出塁率.397

 7月1日の時点でファン投票でナリーグ外野手部門の3位。しかし4位のライアン・ブラウンがわずか3万2925票差まで迫っており、このまま逃げ切れるかどうかは微妙な情勢だ。そして福留の個人成績には派手さがないため、ファン投票で漏れた場合には選出は難しくなるかもしれない。

 ただ例え球宴出場が叶わなかったとしても、福留がカブスにもたらした功績の大きさが目減りするわけではない。
 ほぼ4割台の出塁率が示すように、チームのテーブルセッター役を立派に務め上げて来た。昨季まで早打ちの目立った打線のメンタリティを変えた立役者とも言われる。ここまでカブスの地区首位独走を支えた1人として、プレッシャーの厳しい地元シカゴでの評価が抜群に高い点も忘れるべきではないだろう。
(写真:「スポーツイラストレイテッド」誌の表紙も飾ったように、福留の評価は米でも高い)

 オールスター選出、新人王といった個人の栄誉が得られなかったとしても、秋にはプレーオフ出場という勲章が手に入るはず。さらにもしもカブスを100年ぶりの世界一に導けば、福留も英雄の1人となり、その名はシカゴで語り継がれることになるに違いない。

 松坂大輔 9勝1敗 防御率3.12

 現在アリーグには12勝している投手が1人、11勝が1人、10勝が2人。球宴の指揮を執るテリー・フランコーナ監督は「先発投手枠は6人」と明言しており、松坂も7月2日の登板で勝っていれば有力候補に躍り出るはずだった。プレーオフ圏内にいるレッドソックス内で最多勝なのだから、そう考えれば充分に出場の資格はあるように思えてくる。

 ただ今季は右肩痛で故障者リスト入りするまで8勝無敗という圧倒的な成績を残しながら、「最も内容のない8連勝」と陰口も叩かれた。試合ごとの球数の多さは変わらず、逆にクオリティスタートの数は減少。5月にはキャリアワーストタイの8四球というゲームもあった。ここまでの勝率の高さは、強いチームの援護に助けられた結果という感は否めない。
(写真:成績は優れている松坂だが、コーチや捕手が心配そうにマウンドに駆け寄るシーンも頻繁に見られた)

「オールスターに選ばれるような投手になりたいと思います」
 6月27日の試合で久々に勝利を挙げたあと、松坂は自らそんなコメントを残している。それはつまり、ここまではオールスター級の内容ではなかったことを本人も自覚しているということなのだろうか?

 松井秀喜 打率.323 7本塁打 34打点

 指名打者部門でファン投票2位だが、1位のデビッド・オティースが辞退を表明したため、松井の繰り上げ出場は確実と見られていた。しかしその松井自身も膝痛からDL入りし、球宴までに復帰できるかどうかは微妙な状況である。
(写真:松井のコンディションはオールスターまでに回復するのだろうか)

 前半の成績や貢献度から考えれば、今季の松井にはオールスターのロースター入りの資格は充分。近年稀に見る不振に悩んだチームの中で、唯一安定した打撃を続けて来た。イチローのお株を奪って首位打者争いにも絡み、日本メディア&ファンに新たな話題も提供した。開幕直後からコンディションは万全にほど遠かったのだろうが、それでもこれだけの数字を残して来たのは、今思えば驚異的なことだった。

 地元ニューヨークでのオールスターには、松井自身も強いこだわりがあることだろう。だが古傷が悲鳴を挙げている現状では、出場辞退してゆっくりと体調を整えて欲しい気もする。ヤンキースのプレーオフ出場が危ぶまれる今季、松井のバットが必要になるときが後半戦に必ずやってくるだろうからだ。

(成績はすべて7月3日現在)

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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