Jサポの連帯感が横浜のアジア頂点後押し

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 30年前の5月18日、アテネで行われた欧州チャンピオンズリーグ決勝で、バルセロナはACミランに0-4で敗れた。バルセロナ隆盛の礎を築いたクライフにとっては、“終わりの始まり”とも言うべき衝撃的な惨敗だった。

 

 多くのバルセロニスタが失意のどん底に沈んだ夜、バルセロナ市内の住宅地にあったサリア・スタジアムに不法侵入する輩がいた。

 

 彼は、あるいは彼らは、道路に面した鉄柵を乗り越えてスタジアムに侵入し、入り口の壁に黒のスプレー缶で巨大な落書きを書きなぐって姿を消した。

 

 わたしの知る限り、スペインにも建造物侵入罪や損壊罪という罪はあったはずだが、侵入をされた側のサリア・スタジアム、使用者のRCDエスパニョールは警察に訴えようとしなかった。訴えるべきだ、という声も、警備員の怠慢を責める声もあがらなかった。

 

「ミランよ、0-4をありがとう!」と大書された落書きは、スタジアムが取り壊される日まで、目にするエスパニョールファンのほほ笑みを誘い続けた。

 

 今週末、横浜F・マリノスはアジアチャンピオンズリーグの決勝を戦う。マリノスのファンにとっては一大決戦に向けて気もそぞろ、といったところだろうが、門外漢からすると興味深いのが、他のチームのファンの反応である。

 

 ずいぶんと多くの人が、マリノスを応援しているように感じられるのだ。

 

 前回大会、レッズがアジアの頂点を手にしようとしていた時、もちろん、レッズのファンは熱烈にサポートしていたが、他のチームのファンが一緒になって声援を送った、という印象はあまりない。レッズファンの熱量が凄すぎたから、という面があるのかもしれないが、レッズは、あくまでもレッズのものだった。

 

 なぜACL決勝を前にした今年のマリノスは、マリノスだけのものではなくなりつつあるのだろう。 

 

 準々決勝、準決勝で見せた戦いぶりが、チームの枠を超えて、サッカーファンの胸を打ったから、なのかもしれない。特に、土砂降りのなか行われた蔚山現代との準決勝第2戦は、W杯やアジア杯などをひっくるめて、日本サッカー史上に残る名勝負といっても過言ではなかった。あんな試合を見せられたら、きっと、誰だって応援したくなってしまう。

 

 ただ、個人的にはもう一つ、そうだったらいいな、と抱いている願望がある。

 

 甲府かな。甲府だったらいいな。

 

 国際基準のスタジアムを持たない彼らは、クラブ史上初となるACLのホームを、地元で開催することが許されなかった。やむなく彼らが選んだ会場は東京・国立。足を運ぶことのできる自分たちのサポーターだけでは、ホームの雰囲気をつくり出すことは難しい。

 

 甲府は、そこで他チームのサポーターにも応援を頼むという前代未聞のプロモーションを張った。そして、多くのファンが呼びかけに応え、満員には至らなかったものの、国立は甲府にとってのホームとなった。

 

 そのことが、チームの枠を取り払って声援を送るという、欧米からすれば信じられないような現象を生んだのではないか――そう思いたい自分がいる。

 

 Jリーグでは自分のクラブを、しかし、ACLでは日本のクラブを応援する。30年前、サリアのエピソードを素敵に感じたわたしは、いま、日本のファンの連帯感に胸を熱くしている。

 

<この原稿は24年5月23日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>

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