ブレイブルーパス東京、劇的な幕切れで14季ぶりのリーグ制覇! 〜リーグワン〜
26日、「NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 プレーオフトーナメント」(PO)決勝が東京・国立競技場で行われ、東芝ブレイブルーパス東京が埼玉パナソニックワイルドナイツを24-20で破り、リーグワン初優勝、トップリーグ(TL)を含めると14季ぶり6度目の優勝を果たした。
8年前のTL決勝を彷彿とさせる劇的な幕切れだった。15-16シーズンはブレイブルーパスのコンバージョンキックが外れ、27-26でワイルドナイツが優勝カップを掲げた。それ以来となる両チーム決勝での対戦だった。
この日も後半40分が経過しようとしていた時点で、ワイルドナイツWTB長田智希がインゴールにボールを置き、スコアボードは25-24と逆転。コンバージョンキックを時間いっぱい使えば、試合終了のホーンが鳴る。ボールをセットしていたSO松田力也は「勝ったと思っていました。『80分2秒』までと言われていたので、そのホーンをしっかり聞いてから蹴れば、僕たちが笑っている状況で終わっていると……」と振り返る。
ブレイブルーパス側もキャプテンでNo.8リーチマイケル、LOワーナー・ディアンズら選手がインゴール内でヒザを付いていた。「終わりだなと思った」とディアンズ。司令塔のSOリッチー・モウンガも「長田選手にトライを奪われたかに見えた瞬間は、“厳しいかな”と頭の中にいろいろな感情が駆け巡りました。ただ、大きなビジョンで、例のパスが映し出された時、“まだ、あるのかな”と、また別な感情が浮かんできた」と語った。
この日、4回目のTMO(ビデオ判定)により、HO堀江翔太が投じたパスがスローフォワードと判定され、トライは取り消された。スコアボードは24-20とブレイブルーパスのリードに戻った。このままのスコアでブレイブルーパスは逃げ切った。
序盤攻勢を掛けたのはワイルドナイツ。前半3分、SH小山大輝がインゴールに飛び込んだが、モウンガとリーチに阻まれてボールをコントロールできなかった。このシーンはTMOに掛けられるほど、ギリギリのところでブレイブルーパスは防いだと言ってもいい。11分にはFB山沢拓也をインゴールギリギリのところでリーチが止めた。松田にPG2本を決められたものの、ブレイブルーパスのディフェンスが光った。
すると21分、ブレイブルーパスの初得点が生まれる。FB松永拓朗から右サイドでパスを受けたWTBジョネ・ナイカブラがWTBマリカ・コロインベテ、山沢、CTBディラン・ライリーに囲まれながらも右手を伸ばし、インゴール右にトライを決めた。「一歩でも前にキャリーしようと思っていた。その結果、トライラインが見えたので、そこからは“届け”という思いだった」とナイカブラ。モウンガがコンバージョンキックを決め、ブレイブルーパスが7-6と逆転に成功した。
ナイカブラの爆発力はこれにとどまらない。モウンガのPGで10-6とリードを広げた後の39分、右サイドをぶち抜くと追走するコロインベテは飛びつくようにしてジャージの襟元を掴のが精一杯。コロインベテのプレーはTMOにかけられ、ハイタックルと判断。イエローカードが提示された。その後、追加点は奪えなかったが、
前半は今季リーグ戦最多トライを誇るワイルドナイツの攻撃陣をノートライに抑えるなどディフェンスで耐えた。セットプレーはHO原田衛、PR木村星南、PR小鍜治悠太を中心にFW勝負でも優位に立っていた。その証拠にハーフタイムにワイルドナイツはフロントローを入れ替えた。ロビー・ディーンズ監督が「フロントローについては、先発とベンチで差がないと思っている」とはいえ、それだけ前半で圧力を受けていたと見たからだろう。
後半先手を取ったのは1人多いブレイブルーパスだ。4分にモウンガが自陣から敵陣22mラインギリギリに蹴り出し、「50・22」(自陣から蹴ったボールがバウンドしてタッチラインを割ると、蹴ったチーム側のマイボールラインアウト)でチャンスをつくる。そのラインアウトからナイカブラが外を突き、インゴールを駆け抜けた。モウンガがコンバージョンキックを決め、17-6とリードを広げた。
今季負けなしのワイルドナイツも粘りを見せる。23分、松田のショートパントにWTB竹山晃暉が反応。前方に蹴り出し、インゴールに向かって走り込んだ。一度は松永にボールを奪われたが、FLベン・ガンターが奪い返して、そのままインゴール右隅に叩き込んだ。松田がコンバージョンキックを決め、4点差と射程圏に迫った。
28分には山沢のキックパスをコロインベテが手で弾きながらもボールを落とさず確保。インゴール目前に迫ると、ラックに駆け寄った山沢からパスを受け取った小山がインゴール左に飛び込んだ。松田はここでもコンバージョンキックを冷静に決めて、20-17。ワイルドナイツが再逆転する。
このまま逃げ切りを図りたいワイルドナイツだが、試合はまだ終わらない。34分、CTB森勇登の飛ばしパスを受けた松永が右サイドタッチライン際を駆け抜け、内側を走るナイカブラへボールを送る。さらにナイカブラから預かったボールを森が慎重にインゴール中央にグラウンディング。「自分たちのラグビーを信じてやってきたトライ」。モウンガのコンバージョンが決まり、24-20とブレイブルーパスが再々逆転に成功した。
まだまだドラマは続く。終了間際、ワイルドナイツのトライはTMOの結果、認められなかった。ブレイブルーパスボールのスクラム。既に時計は80分も回っており、ボールをキープして外に蹴り出せばブレイブルーパスの勝利だ。ところがワイルドナイツのFWパックが、ブレイブルーパスのコラプシングを誘った。ラストチャンスを得たのだ。
ワイルドナイツの希望を奪ったのがナイカブラだ。前進を図ったコロインベテに襲い掛かり、ジャッカルに成功する。「笛が鳴るまで、チームとしては繋がりを切らずにプレーし続けようと話していた。幸運にも自分があそこにいた」と殊勲のナイカブラ。次の瞬間、滑川剛人レフリーから試合終了の笛が吹かれ、ブレイブルーパスの優勝が決まった。
ワイルドナイツのキャプテンHO坂手淳史は「優勝にあと一歩足りなかったもの」を問われると、こう答えた。
「足りないもの? なんだったんですかね。ロビーさんも言うように本当にいいシーズンでした。最後はこのように負けて、失敗のように見えるのですが、そうではなくて、みんなで成長してきたし、全員が同じベクトルを向きながらやってきました。昨季もそうですが、決勝はどちらに転んでも分からない瞬間があります。実力も拮抗していますし、今までの戦績も何も関係ありません。イーブンなゲームでした。そこを落としてしまったということだと思います」
ワイルドナイツのディーンズ監督は試合を総括した。
「お互いのチームにいい瞬間があったと思うのですが、どちらに転んでもおかしくないゲームだったと思います。今回、決勝で敗れてしまったことで自分たちが痛手を負った。このチームが非常にいいシーズンを送っていた中、このような結果になってしまい、のみ込むのに時間がかかるのではないかと感じます。ただ素晴らしいファイナルでしたし、このチームを誇りに思います」
ディーンズ監督とはクルセイダース時代に監督とキャプテンという間柄だったトッド・ブラックアダーHC。「5シーズンやってきて初めてワイルドナイツに勝つことができました」と“恩返し”を果たした。「今日も彼らは力を見せてきたし、品格のある素晴らしいチームです。ロビーさんのことも尊敬しています」と相手を称えた。
逆転に次ぐ逆転、そして終了間際はジェットコースターのような目まぐるしい展開。指揮官は「今日の試合の流れが、まさに自分たちのこのシーズンを表していたと思います」と語り、こう続けた。
「レジリエンス(耐久力、弾性)を発揮し、粘り強く戦うことができました。前半25分ぐらいまでにターンオーバーを5回ほどできましたが、すべて相手ボールに戻してしまいました。そこから信じられないようなアタッキングラグビーでブレイブルーパスらしさを見せられたと思います。最初の25分はディフェンスが素晴らしく、スクラム、ラインアウトも力強さを見せました。それ以上に強かったのは自分たちの信念です。ハードワークをした選手たちのおかげだと思っています」
キャプテンのリーチを先頭に、モウンガとFLシャノン・フリゼルというオールブラックス(ニュージーランド代表)のビッグネームが融合した。そこに就任してから起用してきた若手の成長がチームを押し上げた。“接点無双”を掲げた“猛勇狼士”たちが、ついに頂点に上り詰めた。
(文・写真/杉浦泰介)