第23回 「五輪で勝ち抜くために必要なSUBの力」
いよいよ、北京五輪が始まりますね。日本代表はオリンピック前の壮行試合を終え、1勝1敗でした。五輪本番にも出場してくる2カ国との対戦ということもあり、相手チームも本番前の調整という意味合いが大きかったと思います。この2試合には日本代表の収穫と課題が見えました。
まず課題を挙げると、チーム全体としての試合の入り方の問題です。2試合とも先に得点を許す形になりました。これはいけません。特にオーストラリア戦では前半に失点をしてしまいました。徐々に修正していく中での日本の良さは見えてきましたが、先に失点をしないというのは国際試合を勝ち抜くための最低条件です。本番前にここは気をつけなければいけないでしょう。
失点シーンを見てみると、オーストラリア戦では、センターバックが引っ張り出されたところの裏を狙われてしまいました。サイドの絞りも甘く、簡単にカウンターを許してしまったことがミスを呼びました。カウンターでやられないためには、攻められている時ではなく、攻めている時に守備の布陣をしっかり敷いていなければなりません。DFの一瞬のズレを突かれることで失点は生まれます。DFラインのコントロール、人数を相手FWときっちりと合わせておくことが必要でしょう。
一方、収穫があったのは攻撃面です。A代表と同じように内田篤人(鹿島)が右サイドを駆け上がることが多くなって、いい形が見えてきています。チーム全体がサイドで前後に大きく動くという意識を共有できるようになりました。汗をかける選手が11人集まることで、攻守に渡るコンパクトさがチームに出てきます。そしてコンパクトなサッカーを心がければ、ワイドに両サイドを使って、より効果的な攻めが可能になります。
またオーストラリア戦の先制点のような見事なパスワークからのバリエーションを見せてくれたことも評価できる点です。あのゴールを生んだ一連の動きは素晴らしいものがありました。選手たちの見事な連係はそれまでのトレーニングの中での話し合いから生まれたはずです。ここは残り少ない期間でさらに伸ばして欲しいですね。
<五輪本番は初戦がすべて>
本番の舞台では初戦のアメリカ戦は絶対に落とせません。残念ながら日本は体力的にも精神的にもピークを決勝トーナメントにもっていけるほどのレベルではないでしょう。やはり1戦目のアメリカ戦、2戦目のナイジェリア戦が勝負の分かれ目になります。
そこでカギを握るのはSUBの選手です。当然本大会は11人だけでは戦えません。SUBのメンバーが試合に入ったときにはどのような働きをすればいいのか。そして、どのようなことができるのか。壮行試合の2試合で確認した点を、五輪までに最終調整してほしいものです。強いチームというのは単に個々人の能力が高いわけではありません。誰が入ってきても同じ戦いができるようチーム全体が意図を共有しているわけです。監督が選手を投入した意図とピッチ上の選手のプレーがリンクできるように、残りの時間を費やしてほしいと思います。
グループリーグは猛暑の中で1週間に3試合が行われる過密日程です。チームの18名全員で戦わなければなりません。実は過密スケジュールの場合、試合に出ている選手の方が調整しやすいんです。試合に出ていれば自分の体調がどうだったのか把握できますし、当然次の日は休みになります。いい緊張感を持続させることも可能です。しかしSUBの選手は試合出場の有無に関係なく、モチベーションを持ちつづけなければなりません。その上いつでも100%でゲームに出られるために、試合翌日も練習をしなければなりません。私が93年のW杯予選でドーハに行った時もそうでした。たとえ試合に出ていなくても、今すぐピッチに送り出されたら何をしなければならないか。常に考えながら、大会期間中はずっと緊張の糸が張りっぱなしの状態でした。SUBの立場というのは周りが思う以上に難しいものなんです。
日本のSUBメンバーで注目したいのは、FWの李忠成(柏)と森本貴幸(カターニャ)です。彼らの長所をチーム全体で生かせれば試合の流れを変えることができると思います。先発するかSUBに回るかは読めませんが、いずれにしてもFWが点を取らないと上位進出はできません。彼らの働きが日本代表の命運を左右することになるでしょう。
<Jの混戦から抜け出すには>
最後にJリーグに話を移しましょう。首位・鹿島をはじめとした上位争いが混沌とし、中位のクラブまでも巻き込んだ大激戦になっています。上位4、5チームは技術面で上回っていますが、上位陣に一泡吹かせてやろうという中位陣のモチベーションが高い。上位が足をすくわれる試合も目立ち、それが混戦模様に一層、拍車をかけています。
この状態はシーズン終盤まで続くでしょう。どのチームが抜け出せるかはっきりとしたことは言えませんが、最後に問われるのはチームの総合力です。言い換えれば選手層の厚さ。ここでも五輪代表同様にSUBのメンバーがチーム浮沈の鍵を握っています。その点でアントラーズは中田浩二の獲得が最後にモノを言ってくるでしょう。ACLなども含め過密日程が続きますが、他クラブより有利な状況ではないでしょうか。
● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。
*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
まず課題を挙げると、チーム全体としての試合の入り方の問題です。2試合とも先に得点を許す形になりました。これはいけません。特にオーストラリア戦では前半に失点をしてしまいました。徐々に修正していく中での日本の良さは見えてきましたが、先に失点をしないというのは国際試合を勝ち抜くための最低条件です。本番前にここは気をつけなければいけないでしょう。
失点シーンを見てみると、オーストラリア戦では、センターバックが引っ張り出されたところの裏を狙われてしまいました。サイドの絞りも甘く、簡単にカウンターを許してしまったことがミスを呼びました。カウンターでやられないためには、攻められている時ではなく、攻めている時に守備の布陣をしっかり敷いていなければなりません。DFの一瞬のズレを突かれることで失点は生まれます。DFラインのコントロール、人数を相手FWときっちりと合わせておくことが必要でしょう。
一方、収穫があったのは攻撃面です。A代表と同じように内田篤人(鹿島)が右サイドを駆け上がることが多くなって、いい形が見えてきています。チーム全体がサイドで前後に大きく動くという意識を共有できるようになりました。汗をかける選手が11人集まることで、攻守に渡るコンパクトさがチームに出てきます。そしてコンパクトなサッカーを心がければ、ワイドに両サイドを使って、より効果的な攻めが可能になります。
またオーストラリア戦の先制点のような見事なパスワークからのバリエーションを見せてくれたことも評価できる点です。あのゴールを生んだ一連の動きは素晴らしいものがありました。選手たちの見事な連係はそれまでのトレーニングの中での話し合いから生まれたはずです。ここは残り少ない期間でさらに伸ばして欲しいですね。
<五輪本番は初戦がすべて>
本番の舞台では初戦のアメリカ戦は絶対に落とせません。残念ながら日本は体力的にも精神的にもピークを決勝トーナメントにもっていけるほどのレベルではないでしょう。やはり1戦目のアメリカ戦、2戦目のナイジェリア戦が勝負の分かれ目になります。
そこでカギを握るのはSUBの選手です。当然本大会は11人だけでは戦えません。SUBのメンバーが試合に入ったときにはどのような働きをすればいいのか。そして、どのようなことができるのか。壮行試合の2試合で確認した点を、五輪までに最終調整してほしいものです。強いチームというのは単に個々人の能力が高いわけではありません。誰が入ってきても同じ戦いができるようチーム全体が意図を共有しているわけです。監督が選手を投入した意図とピッチ上の選手のプレーがリンクできるように、残りの時間を費やしてほしいと思います。
グループリーグは猛暑の中で1週間に3試合が行われる過密日程です。チームの18名全員で戦わなければなりません。実は過密スケジュールの場合、試合に出ている選手の方が調整しやすいんです。試合に出ていれば自分の体調がどうだったのか把握できますし、当然次の日は休みになります。いい緊張感を持続させることも可能です。しかしSUBの選手は試合出場の有無に関係なく、モチベーションを持ちつづけなければなりません。その上いつでも100%でゲームに出られるために、試合翌日も練習をしなければなりません。私が93年のW杯予選でドーハに行った時もそうでした。たとえ試合に出ていなくても、今すぐピッチに送り出されたら何をしなければならないか。常に考えながら、大会期間中はずっと緊張の糸が張りっぱなしの状態でした。SUBの立場というのは周りが思う以上に難しいものなんです。
日本のSUBメンバーで注目したいのは、FWの李忠成(柏)と森本貴幸(カターニャ)です。彼らの長所をチーム全体で生かせれば試合の流れを変えることができると思います。先発するかSUBに回るかは読めませんが、いずれにしてもFWが点を取らないと上位進出はできません。彼らの働きが日本代表の命運を左右することになるでしょう。
<Jの混戦から抜け出すには>
最後にJリーグに話を移しましょう。首位・鹿島をはじめとした上位争いが混沌とし、中位のクラブまでも巻き込んだ大激戦になっています。上位4、5チームは技術面で上回っていますが、上位陣に一泡吹かせてやろうという中位陣のモチベーションが高い。上位が足をすくわれる試合も目立ち、それが混戦模様に一層、拍車をかけています。
この状態はシーズン終盤まで続くでしょう。どのチームが抜け出せるかはっきりとしたことは言えませんが、最後に問われるのはチームの総合力です。言い換えれば選手層の厚さ。ここでも五輪代表同様にSUBのメンバーがチーム浮沈の鍵を握っています。その点でアントラーズは中田浩二の獲得が最後にモノを言ってくるでしょう。ACLなども含め過密日程が続きますが、他クラブより有利な状況ではないでしょうか。
● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。
*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。