グループリーグ初戦のアメリカ戦は、惜しい形の失点で試合を落としました。後半開始直後、一瞬の判断ミスからDFにズレが生じ、そのスキを突かれるという、国際大会で犯してはいけない失敗をしてしまいました。

 前半の立ち上がりについては、反町康治監督が再三、選手たちに注意してきたとおり、慎重に試合に入ることができました。しかし日本以上にアメリカの出足が慎重でした。彼らは前半45分間、体力を温存するという作戦をとっていましたね。前へ進んでくる意思はほとんど見られませんでした。

 日本はこのペースに油断をしていたのかもしれません。もちろん後半の立ち上がりも慎重に入っていたのでしょう。しかし、この試合唯一といっていいほどの相手DFのオーバーラップからクロスボールを上げられ、守備陣の対応が遅れてしまいました。後半45分間でアメリカのシュートは1本だけという数字からわかるように、日本がピンチらしいピンチを迎えたのはこのシーンだけ。その意味でもこの1失点は悔いが残りましたね。

 攻撃面を見てみると、ワンチャンスで得点を決めたアメリカとは対照的に、日本にはスキをみて常にゴールを狙う雰囲気が見られなかったのは残念です。波状攻撃を仕掛けるシーンもありませんでした。前半は森本の1トップという形で、中盤を厚くしてボールを奪うことには成功していましたが、相手ゴールに脅威を与えるには至りませんでした。やはり後ろから上がってくる選手なり、こぼれ球を積極的に狙う選手なりが出てこないとゴールは生まれません。後半は李、豊田、岡崎などのFW陣を入れて攻撃の枚数を増やしはしましたが、一度できた流れを変えることはできませんでした。

 そんな中、相手を慌てさせたプレーはセットプレーとサイド攻撃。前半21分のコーナーキックからのサインプレーは見事な連係でした。しかし最後にゴール前に詰めたDF森重真人(大分)はシュートを決めきらなければいけません。国際大会では先制点を取る。これが勝ち残るための必要条件です。日本がいい形で攻撃を仕掛け始めた時間帯だっただけに、得点を挙げていれば試合は全く別の形になっていたでしょう。

 右SB内田篤人(鹿島)の攻撃参加も非常に機能していました。ゴールライン付近まで上がるドリブルは迫力がありました。チーム全体でサイド攻撃に重きを置くという意思統一がなされているのでしょう。右サイドは日本のストロングポイントです。このままいい形で攻撃を続けて欲しいですね。

<スロースターターの弱点を突く>

 さて、次戦ナイジェリア戦についてお話ししましょう。ナイジェリアの初戦はオランダとスコアレスドローでした。そのため日本はこの試合で敗れると、グループリーグ敗退が決定してしまいます。引き分けでも決勝トーナメント進出は難しいでしょう。この試合は勝ち点3を是が非でも取りにいかなければなりません。

 最初の1点がどちらに入るかが重要なのは言うまでもありません。ナイジェリアは立ち上がりの動きが鋭くない、いわゆるスロースターター。ここを突かない手はないでしょう。つまり日本が必要なのは、早い時間での先制点です。今の反町ジャパンには失うものはない。初戦は体力温存の意味もあり、慎重な試合の入り方だったと思いますが、2戦目は立ち上がりから積極的に行かなければなりません。

 そのためには、試合に出ている選手だけでなく、控えも含め、全員が自分のやるべき仕事をしっかりやらなければいけません。先制点を奪えれば相手は前に出ざるを得ない状況になります。そうすればDFの裏にスペースが出来てきます。そこを両サイドからの攻撃で突ければ、さらなる得点のチャンスが生まれてきます。

 また、アフリカの身体能力の高い選手たちと戦うには、チーム全体でコンパクトなサッカーを心がけなければなりません。狭いエリアでボールを動かしながら大きなサイドチェンジ、ワイドのパス回しを展開すれば勝機が生まれるはずです。

 中2日という強行日程ですから、前回の敗戦を引きずるなというのは難しいかもしれません。しかし消極的になる必要は全くありません。反省すべき点は修正して、むしろ積極的に相手に挑んでいく必要があるでしょう。

 OA枠を使わなかった反町ジャパンの18名は、今後の日本サッカーを引っ張っていかなければならない選手たちです。オリンピックは経験、そして勉強の場。もちろん勝つことによって学ぶことも多いですが、グループリーグの残り2戦で積極的に戦いを挑み、多くのものを得てほしいと思います。

<学ぶべきものが多いなでしこの姿勢>

 最後になでしこジャパンについても触れておきましょう。ニュージーランド戦の1点目の失点シーンは男子同様もったいなかった。DFの基本はまずクリア、つまりセーフティ・ファーストです。やはり相手にスキをみせてはいけないですね。そして2点目。このPKの判定は僕が見る限り、完全にミスジャッジでした。

 しかし、あのような納得できない判定は国際大会では起こり得ます。同様にこちらが有利になる判定もあります。一喜一憂せず、あきらめずに戦うことが好結果を生みます。なでしこジャパンはそれを初戦のニュージーランド戦で証明してくれました。次のアメリカは世界ランキング1位の優勝候補。しかし彼女たちも初戦に敗れているように、勝負はどんなことが起こるかわかりません。最後までグループリーグ突破を目指してがんばってほしいですね。


● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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