代表戦が国際平和都市・広島で開催される意義
日本代表を指揮する森保一監督のある願いがかなえられた。
それは国際Aマッチを、国際平和都市・広島で開催すること。既に突破を決めている2026年の北中米ワールドカップ、アジア2次予選の最終戦として6月11日、エディオンピースウイング広島でシリア代表と対戦する。
エディオンピースウイング広島はサンフレッチェ広島のホームスタジアムとして今年2月にオープン。約2万8000人を収容でき、国立競技場と同じサイズの大型ビジョンを備える。ピッチとスタンドも近く、臨場感が伝わってくる空間になっている。何より広島市中心部にあることでアクセスが良く、原爆ドームから徒歩圏内にある。平和記念公園も近い。
森保はマツダ、サンフレッチェの選手として、また監督として長きにわたって広島で過ごしてきた。新スタジアム建設への思い入れは強く、署名活動にも参加している。
指揮官にとって特別な場所、思い入れのあるスタジアムだから、国際Aマッチの開催を望んでいたわけではない。すべては平和であることの大切さをサッカー界から発信したいという思いからだ。
長崎と広島。
彼は2つの被爆地を故郷とする。小学1年から高校まで長崎で生活を送った。
少年時代、夏休み中ながら長崎に原爆が投下された8月9日に登校して平和学習を受けた思い出は今なお新鮮な記憶としてある。そして父や叔父から原爆の体験を聞くこともできた。
森保がこう語ってくれたことがある。
「父が3歳のころだったそうです。爆風で家の窓ガラスがパーンと割れたことは覚えていると言っていました。叔父は背中に何かもの凄く熱いものを感じて、海に飛び込んだという話をしてくれました」
原爆を、戦争を身近に感じていたことで平和のありがたみを知った。
彼はサンフレッチェの監督時代、ホームゲーム当日の朝に決まって平和記念公園に足を運んだ。
「散歩を兼ねて行くようになりました。公園に行くたびに、サッカーをやれる喜び、幸せというものを感じます。戦争によって多くの方が命を落とし、多くの方の苦しみや悲しみがあってそのうえで私たちは平和に暮らすことができているのだ、と。原爆で亡くなった方のご冥福を祈るとともに、サッカーをやれる幸せを噛みしめなければならない。そういつも思っていました」
2015年に3度目のJ1制覇を果たした際、地元の中国新聞に掲載された手記(15年12月6日付)にこのように綴っている。
<原爆が投下された8月6日と9日は多くの命が奪われた日として忘れない。せっかく二つの地で生活しているなら、僕の立場で何かを伝えたい>
この年のクラブワールドカップでは公式会見で「サッカーと平和」の意義についても口にしている。
「(準決勝は)大阪でリバープレートと対戦しましたが(相手の)サポーターが広島の原爆ドーム、平和記念公園を訪れてから大阪の試合を見るとか、結果を出せば世界に対して広島を発信でき、広島に来ていただける。そういう役割を担えるように地域貢献したい」
東京五輪代表監督、そしてA代表の監督を務めてからも、きっとこの思いが消えることはなかったはずだ。
エディオンピースウイング広島はその名のとおり、平和への願いがこめられている。広島での国際Aマッチ開催は2004年7月以来となるそうだ。シリア代表戦のチケットは既に完売。全国から、そして相手側からもサポーターが集うことになる。
一人ひとりが平和の大切さを噛みしめるだけでなく、平和を考えるきっかけとする。それこそが森保の願いである。