今年1年目の福井ミラクルエレファンツは、前期は9勝22敗5分け、同じ北陸地区で優勝した富山サンダーバーズに10ゲームもの差をつけられ、最下位に終わりました。キャンプから選手たちを指導してきた私にとっては、彼らが実力を出し切れていないことが非常に悔しく、歯痒い思いをした3カ月となりました。
 福井は開幕4連敗とスタートから大きくつまづきました。2年目を迎え、チームとして昨年1年間、リーグ戦を経験している富山と石川ミリオンスターズの間に割って入ることは容易ではないことは覚悟していましたが、2チームとの差は予想以上でした。

 特に内野陣にミスが多く、失点につながる痛恨のエラーはリーグワーストの82を数えました。これには私も藤田平監督も頭を抱えてしまいました。そこで開幕は投手登録していた笹村浩介(秋田南高−秋田大−NOMOベースボールクラブ−石川ミリオンスターズ)を5月からはショートにコンバートすることにしました。

 実はこれはキャンプの時から考えていたことでした。笹村はストレートは130キロそこそこ、コントロールが特にいいわけでもありません。昨季は石川に所属し、6試合(8回2/3)を投げて1勝0敗、防御率6.23という成績に終わり、オフには戦力外通告を受けました。それでも投手としてやっていきたいという彼の意思を尊重し、今季も投手として登録したわけです。

 しかし、キャンプや紅白戦での彼のプレーを見て藤田監督とは既に「内野手としていけるかもしれない」と話をしていました。そこへきて、開幕から内野のミスが続出していましたから、開幕して1カ月も経たないうちに笹村のコンバートを決めました。
案の定、笹村がショートを守るようになってから、徐々にセンターラインがしっかりしてきました。後期で接戦に強くなったのも守備が安定してきているからにほかなりません。

 また、エースの柳川洋平(平塚学園高−新日本石油−西多摩倶楽部)の復調も大きいですね。キャンプに蓄えたスタミナは夏場になると落ちてくるものです。しかし、そこでどれだけ踏ん張ることができるかが勝負です。プロの投手とは暑さに強くなければ務まりません。そういう点では、柳川は後期に入って頑張っていますね。現在2勝1分けで、登板した3試合はいずれも完投と、エースらしい仕事をしてくれています

 しかし、後期に入ってチームが好調である最大の理由は、選手たち一人ひとりがプロとしての自覚を持てるようになったことにあります。前期は負けが続いても、それほど選手たちは悔しさをにじませていませんでした。逆に私の方が悔しがっていたくらいです。

 というのも、彼らのほとんどはプロ1年生。ですから、結果が出なければ、オフには球団からクビを宣告されるというプロとしての厳しさを味わったことがありません。プロは成績を残すことができなければ放出されてしまいます。だからこそ、みんな必死になってプレーをし、勝利への執念を燃やすのです。

 またNPBとは異なり、地域振興を第一の理念とするBCリーグでは、選手は各県の代表でもあります。技術がなかったとしても、そうした自覚をもち、気持ちの入ったプレーを観客に見せなければいけません。

 そしてなぜ、自分たちはこの場にいるのかといえば、ほとんどの選手がもう一つ上のレベル、つまりNPBへの昇格を目指しているからです。そうであるなら、なおさら一つ一つのプレー、試合に必死にならなければいけません。

 前期はこうしたことを繰り返し選手に伝えてきました。選手たちも、ここにきて理解しつつあるようです。先日、こんなことがありました。最近、セカンドの先発として出場している玉井伸幸(御影工業高−城西大学−福岡ミリオンドリームズ)が守備練習でノックのボールが唇に当たり、切ってしまいました。そこで玉井に「どうする? 休むか?」と訊くと、「いえ、大丈夫です。休みません」と即答し、そのまま練習を続けたのです。休めば、せっかくつかんだレギュラーの座を奪われるかもしれない。おそらく玉井はそう考えたのでしょう。プロとしての自覚がこうした言動をとらせたのだと思います。

 さて、後期はまだ始まったばかりですが12日現在、福井は5勝2敗4分けで北陸地区の首位に立っています。もちろん目標は優勝です。そのためにも、私も老体にムチを打って選手たちを鼓舞していきたいと思っています。

野田征稔(のだ・ゆきとし)プロフィール>:福井ミラクルエレファンツコーチ
1941年12月5日、長崎県出身。PL学園高校、PL教団を経て1963年秋に阪神に入団。70年には88試合に出場し頭角を表し始めると、翌年よりセカンドのレギュラーとして定着。72年にはリーグ最多となる21個の犠打をマークした、75年に現役を引退。その後は阪神のマネジャー、二軍コーチ、フロント、二軍監督、スカウトを務めた。2008年、福井ミラクルエレファンツの野手コーチに就任した。
◎バックナンバーはこちらから