プロボクシングには、ミニマム(47.62キロ以下)級からヘビー級(90.72キロ以上、無制限)まで17の階級がある。WBA、WBC等の団体が各階級の世界王者を定めているのだが、その中でも「世界ヘビー級チャンピオン」の称号には特別な重みがある。
 ボクシングでも柔道でも、レスリングでもそうだが、もともとは階級分けなどなかった。競技として発展する中で、スポーツ性を高めるために設けられたものなのだ。50キロの男が100キロの男と闘えば体格的なハンディを負う。だから闘わせるのはやめよう……との発想が、階級分けの源にある。つまりは、ボクシング界で最強の男とは「ヘビー級チャンピオン」を指すのであり、よって特別な重みが備わっている。
『PRIDE』が終わって『DREAM』がスタートした。以降、大会の主役はライト級、ミドル級のファイターたちへと移っていく。そして、かつてアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ、エメリヤーエンコ・ヒョードル、ミルコ・クロコップらトップレベルの選手たちを中心に繰り広げられていたヘビー級の迫力あるファイトは見られなくなってしまった。ライト級グランプリ、ミドル級グランプリも見応えある闘いが続いた。十分にファンを魅了したと思う。しかし、いくら美味しいカレーライスでも毎日、食べていると飽きもくる。焼肉や寿司が食べたくなる。それと同じように、トップファイター同士によるヘビー級ファイトを『DREAM』のリングで観たいと思い始めた。

 そんな時、9月23日、さいたまスーパーアリーナで開かれる『DREAM6〜ミドル級グランプリ2008決勝ラウンド〜』で、ヘビー級のスーパーファイト2試合が行なわれると発表された。

 ミルコ・クロコップ(クロアチア/チーム・クロコップ)VSアリスター・オーフレイム(オランダ/ゴールデン・グローリー)
 セルゲイ・ハリトーノフ(ロシア/ロシアン・トップチーム)VSマイティ・モー(米国/シャークタンクジム)

 怪我が癒え、復活を果たすハリトーノフにも期待するが、より興味が沸くのはミルコとアリスターの一戦だ。イ・テヒョン、マーク・ハントを相次いで撃破、勢いに乗るアリスターが、ミルコに襲いかかる。
「念願のミルコ戦が実現することを、とても嬉しく思っている。ミルコもKOして無敗のまま、初代DREAMヘビー級チャンピオンの座に就きたい。ヘビー級の新時代の扉を私が開けることを約束する」
 そう話すアリスターは自信満々だ。片やミルコは短いコメント寄せている。
「ご指名ありがとう。楽しみにしています」
 この闘いの主役は、やはりミルコだ。ただ、彼にとって「楽しみ」にするような闘いではないはずである。かつて「PRIDE3強」の一角を占めたミルコも、UFCに戦場を移して以降は満足のいく結果を残せていない。

「もう奴はピークを過ぎた」
 そうミルコを評する外国人ファイターは少なくない。崖っ淵に立たされた観のあるミルコにとって今回のアリスター戦は、ヘビー級戦線に踏みとどまれるか否かの試練の一戦になる。自らがチャレンジャーの立場にある時のミルコは、とてつもなく強かった。しかし、追い込まれた状態での闘いで、彼は「勝負強さ」を発揮できるのかどうか。このスーパーファイトのテーマは、ここにある。
 ホナウド・ジャカレイ、メルヴィン・マヌーフら強豪が集いミドル級の頂点を目指す闘いも楽しみだが、ミルコがサバイバルを賭けて闘うヘビー級ファイトがそれ以上に楽しみだ。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜(文春文庫PLUS)』ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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