首位・愛媛とのゲーム差は2。逆転優勝を狙うには残り3試合を全勝しなくてはならない状況です。独走で制した前期とうって変わって、後期を苦戦した理由のひとつは若手投手の伸び悩み。西田真二監督と相談してなるべくチャンスは与えたつもりですが、それをモノにできた選手がいませんでした。結果、塚本浩二金子圭太の2本柱と、前回紹介した福田岳洋らに負担がかかってしまいました。

 中でもサウスポーの松居伊貴(近江兄弟社高−佛教大−リッツベースボールクラブ)はNPBのスカウトが視察にきていたにもかかわらず、アピールが足りません。先週もスカウトが見守る中、リリーフで1回1失点、先発で4回2失点。結果的にはまずまずとはいえ、内容が伴いませんでした。
(写真:NPBとの交流戦でも登板した松居)
 
 実はプレッシャーをかけてはいけないと思い、本人にはスカウトが来ることは教えていませんでした。「今週は大事な1週間だ。今まで以上にしっかり調整するように」。松居に伝えたのはその一言です。

 彼の得意球は140キロ台のストレートと、スライダーのように角度のあるカーブ。しかし、当日は140キロを超えるボールがほとんど投げられませんでした。松居にはまだ細かいコントロールがない分、少なくとも140キロ以上の球速が必要です。たとえ140キロが出なくても、カーブで相手のタイミングをずらすことができればまだ良かったのですが、その点でも自分の色を出すことができませんでした。

 NPBに行くために必要なものは何か。それは自分の色をはっきりと出すことです。現役時代の僕にとってはカーブが自分の色を表現するボールでした。ヤクルト時代を振り返ってみると、川崎憲次郎さんにはシュート、伊藤智仁さんにはスライダー……。名刺代わりのボールを持っている投手が活躍していました。

「自分はこれで飯を食っていくんだ」
 持ち味がひとつ見つかれば、後はそれに磨きをかけるだけです。アイランドリーグでは、まだ色がはっきりしていない投手がほとんど。まずはその絵の具を見つけることがひとつの課題になります。

 さらに言えば、確実に操れるボールは2つ必要です。いくら得意球を持っていても、そればかり投げていては攻略されてしまいます。極端な話、球種は3つも4つも必要ありません。もうひとつストライクをとれるボールがあれば、それだけでバッターを牛耳ることができます。

 その点、松居は自分の色にできそうな変化球も持っていますし、それを補う2つ目のボールもあります。この1年間、下半身を鍛えたことで土台はできました。伸びしろは充分に感じられるサウスポーです。今年残されたアピールの機会は10月のフェニックスリーグ。結果はどうであれ、自分のベストのボールをキャッチャーミットめがけて投げ込んでほしいと思っています。

 もし後期で優勝できなくても、アイランドリーグ3連覇、2年連続の独立リーグ日本一を目指す戦いはすぐにやってきます。もうこの時期は、先発もリリーフも関係ありません。8人の投手をフル回転させて1試合1試合、勝つのみです。まずは週末に行われるラスト3試合に向け、万全の調整をしていきたいと考えています。


加藤博人(かとう・ひろと)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1969年4月29日、千葉県出身。87年ドラフト外で八千代松陰高からヤクルトに入団。2年目の89年に6勝9敗、防御率2.83(リーグ8位)の成績を挙げて一軍に定着。故障で戦列を離れた年もあったが、貴重な中継ぎサウスポーとして95年、97年のチームの日本一に貢献した。分かっていても打てないと評された大きく曲がり落ちるカーブが武器。01年に近鉄に移籍後、02年には台湾でもプレーした。日本球界での通算成績は27勝38敗、防御率3.85。05年にスタートした四国アイランドリーグで香川のコーチに就任。現役時代に当時の野村克也監督から学んだ“野村ノート”や自らの故障経験を活かした丁寧な指導で高い評価を受けている。


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