ロングスローはなぜ効果的なのか
ロングスローと言えば、FC町田ゼルビアである。
J1上位対決となった6月30日、ガンバ大阪とのアウェイマッチでもそれはさく裂した。0-1で迎えた前半ロスタイム、林幸多郎のロングスローを相手がクリアしきれず、コソボ代表イブラヒム・ドレシェヴィッチのシュートがブロックされながらも今季初先発のミッチェル・デュークが頭で押し込んで同点に追いついた。このゴールが反撃の狼煙となって3-1で勝利。首位の座をしっかりキープしている。
なぜここまで効果的なのか。
青森山田高を全国屈指のサッカー強豪校に育て上げた黒田剛監督がチームに叩き込んできたもの。町田がJ1初勝利を挙げた時のゴールもロングスローからであった。
3月2日、第2節名古屋グランパス戦。前半21分、相手にクリアされながらもその威力が弱かったことでスローワーの鈴木準弥がそのまま拾ってクロスを送り、藤尾翔太のゴールを呼び込んでいる。相手をくぎ付けにして仕留めた一連の流れは、実に見事であった。
高校サッカーの延長線などと、ロングスローを揶揄する声があることも事実。そうはいってもJ1勢がしっかりと対策を取れていない現状がある。鹿島アントラーズはスローワーに対してマークをつかせて応対したが、どこも手を焼いていると言っていい。
今季、鹿島から移籍してキャプテンを務める昌子源に、ロングスローの強みを聞いたことがある。彼はこのように語っていた。
「世間的にロングスローに対して賛否の声があるようにも聞いています。でも僕らのチームのなかでははっきり言って“賛”しかない。別に何m以上はダメとか、1試合何回とかそんなルールはないし、ロングで投げられる選手がいるわけですから。
守る側のセンターバックの目線に立つと、実にやっかいなんです。キックと違ってボールに勢いがない分クリアしても遠くに飛ばない。首を振ってもっと遠くに飛ばさないといけないっていう心理が働くと、ミスも多くなる。クリアしてもまたロングスローされると、気持ち的にもしんどい。相手からすれば、腹立つやろなとは思うんです。それをうちのチームは何の迷いもなくやるし、そういった一つひとつ、勝負にこだわっていくことにつながっていると思うんです」
まさに名古屋戦のゴールがそうだった。相手のクリアがどうしても短くなる分、そこでマイボールにできれば再びチャンスとなるわけだ。心理的にもプレッシャーを掛けられるという側面も、なるほど納得がいく。
ただ、攻めの観点ばかりではないという。昌子が言葉を続ける。
「ロングスローでは俺らセンターバックも上がる。となれば相手のフォワードも戻ってこざるを得ないし、カウンターを受けづらくなるということにもつながる。それに相手に傾きそうな流れを、ロングスローによって渡さない。自分たちのペースになるわけですから。そういう効果もあると思います」
リスクマネジメントの意味もあれば、流れの駆け引きの意味もある。ロングスローでチャンスをつくればつくるほど、町田の思うツボになるのかもしれない。
ただ、ロングスローの一辺倒ではない。スローインひとつ取ってもバリエーションがあり、セットプレーになると俄然、チームとして勢いを増すというのも町田の特徴にある。
かつて中村俊輔に聞いた言葉を思い出す。
「セットプレーには流れを変える力があると思っている。(戦ってみて)反町康治監督時代の松本山雅と曺貴裁監督時代の湘南ベルマーレにそれを強く感じた。自分たちのチームがいくら優勢であっても、彼らがセットプレーのチャンスを得るとそれまで劣勢だったのに一気に勢いづく。こちらとしても足を止めることになるから、優勢の流れが一端ゼロに戻るような感覚。向こうのセットプレーがたとえうまくいかなかったとしても、“練習してきたものを出したぞ”的なポジティブな雰囲気になるし、逆にこちらは“芸を見せつけられた”的なネガティブな雰囲気にもなる」
流れを変える、は先述した昌子の話とも共通する。ロングスローは町田にとってポジティブを呼び込み、相手にネガティブをもたらす。ゴールに結びつかなくとも、それだけでも効果としては十分だろう。
ロングスローはまだまだ猛威をふるいそうだ。