楽しみなNBAの新シーズン開幕が間近に迫っている。
 昨季のNBAはセルティックス、レイカーズという伝統チームの台頭で、近年最大級の盛況シーズンとなった。迎える今季も魅力的な役者が多いことでは変わらず、リーグ全体の人気復活をさらに押し進める1年となりそうである。
 そこで今回は、数ある強豪の中から特に注目すべき4チームをピックアップして見どころを探っていきたい。ここで取り挙げたセルティックス、レイカーズ、キャブス、ロケッツは08〜09年を通じて様々な話題を呼んで行くことはまず間違い無い。
(写真:セルティックス2連覇への期待は十分だ)
[連覇へ向けて セルティックス]
 魅力的なビッグスリー(ケビン・ガーネット、ポール・ピアース、レイ・アレン)の完成→レギュラーシーズンの快進撃→宿敵レイカーズを下してファイナル制覇……と、昨季のセルティックスはまるでハリウッド映画の筋書きのような軌跡を辿り頂点へ駆け上がっていった。
 余勢を買って迎える今季――。この伝統チームが勢いを保ち、2連覇を飾れるかどうかが今季のNBAの最大の見どころと言って良い。
 先発メンバーは揃って残留しただけに、大幅な戦力ダウンの心配はない。しかし控えの要だったジェームス・ポージーが移籍してやや層が薄くなったこと、他チームがレベルアップして競争が激しくなったことなど懸念材料も少なくない。そして何より、悲願のファイナル制覇を達成した直後で、揃って30歳代のビッグスリー(アレン33歳、ガーネット32歳、ピアース31歳)のモチベーションに衰えがないかどうかも心配の種となる。
「現状に満足することはないよ。常に向上して行きたい。まだまだ良いチームになれる自信があるんだ」
 そう語るピアースの言葉通り、セルティックスは今シーズン中にも近年の米スポーツを代表するスーパーチームへと昇華できるのか。あるいは不安が的中し、昨季に全精力を注ぎ込んだ一発屋で終わるか。華やかなスター軍団の行方に全米の視線が注がれる季節が間近に迫っている。
(写真:全米のバスケファンがもうすぐアリーナに戻ってくる)


[レブロン爆発へ キャブス]
 王者セルティックスに真っ向から挑戦状を叩き付けようとしているのが、怪物レブロン・ジェームス率いるキャブスである。
 昨季プレーオフ第2ラウンドでセルティックスと対戦したキャブスは、戦前の予想を覆して最終第7戦までシリーズをもつれ込ませた。レブロンの爆発的な進撃の前に後の王者も一時は成す術なく、ボストンのアリーナ全体が敗北への怯えから沈黙したシーンは筆者の脳裏にも鮮明に焼き付いている。
 その昨季のキャブスはレブロンのほぼワンマンチームだったが、今季は待望の補強を敢行。PGモー・ウィリアムスをバックスから獲得して、攻撃力をさらにアップさせた。そして今季がタイトル奪取のチャンスと睨んだフロントが、シーズン中にさらなる補強を展開する期待も囁かれる。
 6年目を迎えMVP候補筆頭と言われるレブロンを中心に、周囲のメンバーがより充実し、そこに昨季にセルティックスを追い詰めた経験が自信となって上手くミックスされれば……。
「もう言い訳は残されていないよ。ただコートに出て行って、このリーグを支配するだけだ」
 レブロンはそう語り、近い将来の王座到達に自信を示す。今季もセルティックス対キャブス、いやレブロン対ビッグスリーの再戦が、イースト内で最大の注目カードであることはまず間違いない。


[コービーの理想のチーム誕生か レイカーズ]
 昨季ファイナルではセルティックスに完敗を喫したとはいえ、今季中により支配的なチームを完成させる可能性が高いのはレイカーズの方かもしれない。
 天才コービー・ブライアントを大黒柱に、ラマー・オドム、ポウ・ガソルとスターが揃うレイカーズがリーグ屈指のタレント集団であることは周知の事実。そして今季はそこに20歳のセンター、アンドリュー・バイナムが戻ってくる。
 昨季途中に膝を痛めて離脱するまで、バイナムは36試合で13.1得点、10.2リバウンドの好成績を残していた。もしもこの才能あふれるビッグマンが完調で復帰すれば、昨季断然の強さでウエスタンカンファレンスを制したチームに大きな武器がまた1つ増える。実力、魅力を兼ね備えた4人が、セルティックスのビッグスリーを凌駕する人気を集めても不思議はないだろう。
「僕が大きなプレッシャーを背負う必要はないよ。このチームには本当に素晴らしい選手たちが揃っているからね」
 バイナムのそんな言葉からも、レイカーズの周囲に漂う好気配が伝わってくる。自身にだけでなく周囲にも厳しいはずのコービーが、今季は上機嫌のまま頂点まで勝ち進むことになっても驚くべきではないのかもしれない。
(写真:コービー・ブライアントもタレント揃いのチームに満足することだろう)

[クセの強い新・3本柱が完成 ロケッツ]
 半ば好奇心に満ちた視線を集める注目チームがロケッツである。トレーシー・マッグレディ、ヤオ・ミンという両輪が主軸だったチームが、今オフにロン・アーテスト獲得という大ギャンブルを敢行。粘着的なディフェンス力ではリーグ有数のアーテストの加入で、ロケッツはペーパー上は高レベルなウエスト内でも最高級の戦力を整えた。
 ただ、決して筋書き通りに動いてくれないのがアーテストという選手。有名な2005年の大乱闘事件をはじめ、これまで幾多の騒ぎに巻き込まれてきたトラブルメーカーが次に何をしでかすかは誰にも想像できない。
 今季も再び爆発物としてロケッツ空中分解の火種を作るか? あるいは期待通り攻守の切り札になるか?
 いずれにしても、中国人ビッグマン(ヤオ)、故障の多いガラスのエース(マッグレディ)、希代の暴れん坊将軍(アーテスト)というくせ者揃いの3本柱を揃えたロケッツは、今後の動向が非常に楽しみなチームである。彼らがダークホースとして戦線に絡んでくれば、今季の上位争いがより興味深いものとなることはまず間違いないのだ。
(写真:爆発物のようなロン・アーテストの存在はロケッツに新たな彩りを添える)



杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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