フィリーズが4勝1敗でレイズを下した今季のワールドシリーズは、残念ながら盛り上がりに欠けた感は否めなかった。
 テレビ視聴率は史上最低。その最大の理由は、フィラデルフィアで行われた3〜5戦が悪天候の影響をもろに受けてしまったことなのだろう。
(写真:田口壮も2個目の優勝リングを獲得したが、ワールドシリーズの米での注目度は低かった)
 大熱戦となった第3戦も、試合開始は雨のために約1時間半も遅れPM10時過ぎ(東部時間)。フィリーズの劇的なサヨナラ勝ちで決着がついたのはなんと深夜の2時前で、地元以外の多くの東海岸のファンは、この名勝負の結末を知らぬままとっくに眠りこけていた。
 さらに第5戦は、ご存知のように6回表を終えたところで悪天候のためにサスペンデットゲーム。翌々日にようやく最後の3イニングを行ない、シリーズは少々締まりに欠ける形で終わりを告げた。
 フィリーでの3試合が行われた期間中は、気温も連日下がる一方。ほとんど初冬の寒さの中でファンは毛布にくるまりながら声援を送り、選手たちも帽子の下に耳当てを搭載してプレーを続ける羽目になった。

 こうして最悪の条件下で行なわれたワールドシリーズの期間中から、関係者の間では今後の悪天候対策が盛んに話題となっていた。結論をいうと、ワールドシリーズは「NFLのスーパーボウルのように温暖な中立地で開催されるべき」という声が一気に噴出したのだ。

 実際に10月中旬以降のアメリカ東海岸はもともと雨が多く、気温も一気に下がる。近年のMLBは東海岸に強豪チームが集中していることもあり、ホーム&アウェーという今のままの制度ではこれから先も「極寒のワールドシリーズ」は繰り返されることだろう。
 筆者も今年のワールドシリーズはフィラデルフィアの球場で取材を行ったが、正直言って野球をやる環境とは思えなかった。
 雨の中の泥んこ・ベースボールとなった第5戦は論外。気温が氷点下に近づくような寒さは選手たちのパフォーマンスにも影響する。投手や野手の細かなミスは多くなるし、ケガの危険すら大きくなる。
(写真:フィリーズの本拠地シチズンズ・バンク・パークの水はけの良さは救いではあったが……)

 バド・セリグコミッショナーは「地元ファンから楽しみを奪うのは避けたい」と中立地開催に反対コメントを残していたが、野球は寒さの中で震えながらプレーするスポーツではない。ファンの気持ちを考えるのももちろん大切なことだが、それによって肝心の試合の質が下がってしまっては本末転倒である。
 と、ここまで考えると、ワールドシリーズの温暖な場所での挙行は決して悪いアイデアでないように思えてくる。同スタイルで行われているスーパーボウルが「世界最大のスポーツイベント」と呼ばれるほど繁栄していることを考慮に入れれば、なおさらその思いは強くなる。

 ちょうど先日、「ESPN.COM」のバスター・オルニー氏が、HP上でこんな論を述べていた。
「アリゾナやフロリダなど温暖な中立地でシリーズの全戦を行い、その期間をリーグを挙げての一大フェスティビティに仕立てる」
 そしてオルニー氏はそれに向けて具体的に幾つかの提案を寄せている。

・チケット購入の優先権は進出チームのシーズンチケットホルダーが保持する
   →地元ファンへの配慮
・移動の必要がないため、シリーズ中は休養日なしの7連戦
   →よりシーズン中の戦い方に近い形で雌雄を決する
・GMミーティングをシリーズ中に開催
   →業界の要人がすべて集う(近年のシリーズでは出席者が減少していた)
・MVP、サイヤング賞ら主要タイトルを連日発表し、セレモニーを行う
・過去の殿堂入り選手たちを招待し、サイン会などイベントを連日行う
・翌年の殿堂入り選手を発表
   →過去、現役の名選手が集まり、場の豪華さが増す

 もしこんな盛大なイベントが可能ならば、リーグの繁栄を誇示するような見事な7日間となるだろう。
 実に夢のある話だし、スーパーボウルに負けないほどの注目が全米から集まるはず。なによりも温暖な地を選定すれば、気候に悩まされることはなく、規定のスケジュール通りにワールドシリーズは進んでいく。選手たちも普段のコンディションのまま思う存分に力を発揮できるのだ。
 
 もちろん、基本的に保守的なMLBがこれほど大胆で抜本的な改革を簡単に実行するとは思えない。伝統遵守などの観点から、中立地開催への反対意見は現時点で賛成派を上回るほどに多いのも事実である。
 ただ、名勝負の連続となる可能性があった今年のワールドシリーズは、天候のおかげでその様相が大きく変わってしまった。さらに来季はワールド・ベースボール・クラシックのために、MLBプレーオフの開催時期はさらに11月中旬までずれこむことになる。そこで再び、あなたは今秋のように痛々しい雨中のベースボールを観たいだろうか?
(写真:名手ジミー・ロリンズが悪天候の中で手痛いエラーを犯すシーンもあった)

 ときに伝統的なシステムを守るより大事なことがある。そして新たな方法下でも上質なパフォーマンス保ち続ければ、あるいはさらに上質なものを見せれば、ファンも必ず変化に対応してついてきてくれるはずなのだ。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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