ここまでイチローが言うからには余程、腹に据えかねていたのだろう。
 しかし、言っていることは正論だ。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の日本代表監督選考に大きな一石を投じたのではないか。

「大切なのは足並みを揃えること。北京の流れから(WBCを)リベンジの場ととらえている空気があるとしたら、チームが足並みを揃えることなど不可能」
 そもそも日の丸を背負って戦う国際試合は、個人のリベンジの場ではない。ところが、球界には「星野にリベンジをさせてやれ」という声が後を絶たない。国際試合の何たるかがわかっていないのではないか、との思いがイチローには強いようだ。
 それにWBC初代王者の日本にとって、第2回大会はリベンジの舞台ではなく、ディフェンディング・チャンピオンとしての戦いが求められる。
「惨敗した北京五輪とディフェンディング・チャンピオンのWBCは別物でしょう」。イチローはそう言いたいに違いない。

 またイチローはこうも語っている。
「最強のチームをつくるという一方で、現役監督から選ぶというのは難しいでは、本気で最強チームをつくろうとしているとは思えない」
 10月15日に加藤良三コミッショナーが中心となって開かれたWBC体制検討会議で、出席した王貞治コミッショナー特別顧問が「現役監督は難しい」と発言。これを受けて現役監督は除外する流れが強まった。
 イチローの発言は、この流れを真っ向から否定するものだ。
 チームを率いる者が代表監督も兼任するのは激務だとの王顧問の主張は経験者だけに説得力を持つが、前回は兼任監督の王顧問が日本代表を率い、初代王者に輝いている。
 優れた指揮者がいるなら、OB、現役に限定すべきではないとのイチローの主張は、WBCの主旨が「真の世界一の国(地域)を決める大会」であることを踏まえても正しい。

 それは以下のコメントからも見てとれる。
「もう一度、本気で世界一を奪いにいく。WBC日本代表のユニホームを着ることが最高の栄誉であるとみんなが思える大会に自分たちで育てていく。シンプルなことなんですけどね」
 本来、シンプルであるべきことが、NPBや主催者側の思惑が入り交じり、なかなかシンプルに決まらない。それに対する苛立ちもイチローにはあるのだろう。
 逆にいえば、そこまでイチローが踏み込んだ発言をするということは、第1回大会に続き、第2回大会も「オレがチームを引っ張る」というイチローなりの意思表示なのだろう。

 WBC日本代表監督は北京五輪日本代表監督・星野仙一氏の“横滑り”という流れができつつあるが、イチローの発言は「本当にそれでいいんですか?」と異議を申し立てているようにも聞こえる。それは多くの野球ファンの声を代弁したものでもある。

<この原稿は2008年11月9日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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