W杯最終予選で、容易に勝ち点3を挙げることのできる相手はいないでしょう。だからといって、10月15日に行われたウズベキスタン戦のような戦い方をしてはいけません。岡田武史監督が試合後に指摘していたとおり、「相手が積極的にボールを奪いにきたことで臆病になって」いました。試合開始から選手たちには、もっと果敢に攻めの姿勢をみせてほしかったです。

 ここ数試合を通して、私が気になっているのは日本のディフェンスラインです。代表は4試合連続で相手に得点を決められています。完封したのは6月の3次予選ンバーレーン戦が最後です。メンバーが数名代わっているにしろ、安定感がないことに変わりはありません。

 日本の守備を支えているのは両センターバックの中澤佑ニ(横浜)と田中マルクス闘莉王(浦和)の2人です。しかし、長い間コンビを組んでいる2人の間でうまく連係ができていないように思えます。前半27分の失点についても、相手の攻撃からワンテンポ遅れて守備に入っていました。もちろん、失点は2人だけの責任ではなく、中盤の底に位置する選手も含めた組織の問題です。

<日本が抱える2つの課題>

 代表チームというのは、リーグ戦やカップ戦、クラブでの国際大会の合間を縫って練習をしています。選手たちに許された練習時間はとても少ないものです。しかし、限られた時間しか与えられていないことは承知の上。少ない時間だからこそ、彼らには求められる仕事、役割があるわけです。

 私が代表にいた頃には、練習後に必ず各ポジションで話し合いをするようにしていました。DFでは井原正巳、柱谷哲二を中心に、何のために代表で戦うのかというメンタル面での話しから始まり、練習や試合での反省点、修正点を洗い出すことなどを繰り返しました。話し合いは選手たちが同じベクトルを持ち、一緒に戦っていくために必要不可欠な作業だったように思います。

 今の代表には横のラインを統率する選手がいません。つまり、各ポジションで核になる選手がいないんです。私たちの頃ならばFWにカズ(三浦和良)とゴン(中山雅史)、MFにラモス(瑠偉)さん、DFに井原と柱谷がいました。彼らがポジションの中心をがっちり固めて、周りの選手たちを鼓舞してくれました。そして監督のコンセプトをピッチ上で体現してくれたんです。ジーコ監督時代には宮本恒靖(ザルツブルグ)がその役割をしていました。こういう役割を担う選手が今の代表にはいないように感じます。

 もちろん中村俊輔(セルティック)はしっかりとチームをコントロールしようとしていますし、その働きについて一定の評価はできます。しかし、彼が岡田監督の考えを代弁する選手かというと、そうではない。チームの核となる選手の不在。これが日本代表が抱える一番の問題点です。

 もう一つ苦言を呈したいことがあります。まず、選手たちは自分のいるべきポジションでしっかり仕事をしてほしい。これはDF、MF、FWの全てのポジションにいえることです。

 具体的な名前を挙げると、闘莉王には攻撃参加の前に、中澤をはじめとしたDF陣と中盤の選手との間で守りの修正点を確認してほしい。DFラインをしっかりと合わせることも必要です。また、相手からの浮き球があればセーフティーファーストでクリアするのか、パスをして中盤へ繋げていくのか。そういった共通の認識を持つ必要があるでしょう。攻撃に上がるのはまず、自分の仕事をしっかりとしてから。チームが失点を許して、それを取り返すためにFWのポジションに上がっていくというのでは本末転倒です。

 闘莉王の攻撃参加については他の攻撃陣にも問題があります。攻撃のオプションとして闘莉王というカードを持つこと自体は悪くないでしょう。しかし、彼が前線に上がったからといって、彼にボールを放り込むだけでは情けない。「自分たちが点を取るんだ。ここは俺たちに任せてオマエは下がっていろ!」という、気概のある選手がいないのでしょうか。これでは日本代表という名前が泣きますよ。

 多くの選手たちはウズベキスタン戦後、「自分たちやり方は間違っていない。このままやっていけばいい」とコメントしていました。ならば、連係やパスの精度をもっとしっかり磨いて結果を出さなければいけません。各ポジションを与えられた選手は、日本サッカーを代表してその仕事を任されているのです。攻撃でも守備で1対1は絶対に負けないんだという気持ちを持って戦って欲しい。このメンタルな部分も今の代表には欠けている気がします。

<ACL準決勝、勝者と敗者を分けたもの>

 アジアチャンピオンズリーグではガンバが決勝に駒を進めました。日本勢同士の対戦となった準決勝は第1戦が1−1の引き分け、第2戦を3−1、初戦ホームでレッズに勝つことができなかったガンバは、第2戦でも先制を許す苦しい試合展開でした。

 しかし、失点後も戦い方を変えず、「中盤での細かいパス回しから相手を崩す」自分たちのスタイルを貫きました。「同点になれば必ず勝ち越すことができる」と信じていたのでしょう。西野朗監督と選手の間に信頼感がありましたね。そのプラン通り、後半6分という早い時間帯に追いつけたことも大きかった。勢いづいたガンバに、明神智和の勝ち越し弾、遠藤保仁のダメ押し弾を決めることに時間はかかりませんでした。

 一方、レッズは浦和はホームゲームで勝ちを収めなければならないという重圧に呑まれ浮き足立ってしまった。ガンバはアウェーながらじっくりと構えて戦うことができた。この意識の差が勝者と敗者を分けたと言えるでしょう。

 決勝戦の相手は準々決勝で鹿島を退けたアデレード・ユナイテッド(オーストラリア)です。ガンバのホームで第1戦を迎えますが、アデレードは引き分けでいいという戦い方をしてくるでしょう。彼らは9月に日本での試合を経験しています。これも決勝ではプラスに作用するはずです。

 しかし、ガンバは相手の出方に対し、決して焦ってはいけません。準決勝第2戦のようにじっくり構えて自分たちのサッカーをしてほしい。準決勝同様、決勝でも自分たちのスタイルを貫くこと。これがアジアの頂点に立つために大切なことです。2年連続で日本からアジアチャンピオンが生まれることを期待しています。


● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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