W杯最終予選第3戦は、敵地できっちりと勝ち点3を奪うことに成功しました。負傷者も多くアウェーでは苦戦も予想されていましたが、終わってみれば3−0の完勝。岡田武史監督のコンセプトが徐々に浸透してきたようです。カタール戦は楢崎正剛(名古屋)、中澤佑二(横浜FM)といった、これまでチームの中核を担ってきた選手が欠場しました。そのような状況の中、チーム全体がどのように動くかが注目すべきポイントでした。

 特に不安視されていたのが、DFラインにおける中澤の不在。彼の代役を務めたのが寺田周平(川崎F)です。33歳のベテランですが、これまで代表経験はほとんどありません。W杯最終予選という大一番で、しかも結果によっては監督の進退問題にまで発展するという状況下でどのようなプレーを見せるか、試合開始から注目していました。

 まず、前半については、少し空回りしているように見受けられました。序盤のカタールはホームゲームということもあり、積極的に前に出る姿勢をみせていました。彼らのパスに対し、インターセプトを狙おうとして、逆にすかされるシーンがいくつかありました。ボールを奪ってもパスミスをしてしまうなど、若干の緊張があったのかもしれません。しかし、大舞台での先発となれば多少のミスは仕方のないことです。問題はその後、自分自身でどのように立て直していくかです。

 後半に入ってからの寺田は、自分のよさを引き出すことに成功していました。前半の戦い方を踏まえ上手く修正できていたと思います。じっくりと落ち着いて相手の長いボールに対応していくようになっていました。いい時間帯にFWが点を決めたこともありますが、後半はピンチらしいピンチが一度もなかったほど、寺田と田中マルクス闘莉王(浦和)を中心とした守備陣が完璧な仕事をしたと思います。バックアップメンバーとして十分に合格点をあげることができる内容でした。あれだけ難しい試合の中、0点で抑えることができたのは本人にとって自信になったでしょう。レギュラーへの大きな一歩となったはずです。寺田の台頭は代表全体にとっても大きい。これまで「センターバックは中澤、闘莉王の二人で不動」と言われてきましたが、カタール戦のようにどちらかが負傷したとしても、その穴を埋められる選手がいることが今回で証明されたわけです。チームの抱えていた大きな不安が一つ減ったといえるでしょう。

 先述したように、守備陣に大きな安心を与えたのは、攻撃陣による得点でした。先制点、2点目と最高の時間に入りましたね。この2得点を挙げたのが、ツートップの二人でした。田中達也(浦和)の先制点は前半18分。このゴールで相手の前に出ようとする意欲が完全に消えました。得点シーンまでなかなかチャンスを作れなかっただけに、確実にシュートをゴールに流し込んだことは大きかった。そして後半開始直後に決まった玉田圭司(名古屋)の豪快な左足のミドルシュート。強烈な一撃が決まった時点で勝負ありという感じでした。カタールは完全に戦意を喪失してしまいましたから。

 この二人が素晴らしかったのは、得点だけでなく前線からの守備での貢献です。最も警戒すべき点はカタールFWセバスチャンにボールを入れないことでした。これが勝ち点3を手にするための最善の手段であるという意識がチーム全体に浸透していました。田中達、玉田の二人がプレッシャーをかけ、相手のパスコースを限定したところで中盤の選手がボールを奪う。これがうまく機能し、カタールにボールを運ばせることを許しませんでした。これはアウェーで先制点を与えないための常套手段かもしれませんが、なかなか簡単に実行できることではありません。相手を完全に抑えたのは、岡田JAPANが成熟してきたことの表れだったように感じます。

 素晴らしい試合をした日本代表にあえて物申すことがあるとすれば、守備から攻撃に転じた瞬間にボールを奪われないようにすること。これも鉄則といえばそれまでですが、完璧に行うことは容易ではありません。アジアレベルではミスをしても決定的なものにならないかもしれませんが、欧州や南米の強豪国相手ではそうはいきません。W杯で上位に進出するチームを作るためにも徹底してもらいたい点です。

<素晴らしかったガンバのアジア制覇>

 11月12日にガンバ大阪がアジア王者になりました。前回のコラムでは、ガンバには最後まで自分たちのサッカーを続けて欲しいといいました。彼らは決勝第2戦も見事な攻撃サッカーを披露し、2−0の完封勝ち。大会を通じて1度も負けない完全優勝ですから、文句なしのアジア王者です。遠藤保仁のようなタメの作れる優れた選手がいますが、誰か一人が突出していたというよりも、選手全員が西野朗監督のコンセプトをしっかりと理解していたことが、一番の勝因だったように思います。Jリーグでは勝ったり負けたりを繰り返していますが、国際試合になるとやるべきことを絞り、ゲームプランが明確になっていましたね。

 これで昨年の浦和に続き、Jリーグ勢が2年連続でアジア王者の座に就きました。12月に行われるクラブW杯では、世界の強豪クラブとの真剣勝負が控えています。これはほんの10数年前には考えられなかったこと。僕らがアマチュアでやっていたころには想像すらできませんでした。世界トップレベルの技術やスピードを体感できるのは本当に貴重な経験です。ガンバには上位に進出して少しでも多く、世界の空気に触れてもらいたい。結果を残すことで日本の子供たちに夢を与えてほしい。大きな夢を見ることは少年たちにとって非常に大切なことです。代表チームと同様、日本を、Jリーグを背負って立つ者として堂々とした戦いをみせてほしいですね。


● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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