先日行われたドラフト会議、残念ながら徳島から指名を受けた選手はいませんでした。徳島は後期最下位という結果に終わりましたが、決して他球団より個々の力が劣っているわけではありません。特にリーグ3、4年目の選手たちは、今年が最後という思いで練習に打ち込んできました。その姿を間近で見てきただけに、彼らの夢をかなえてあげられなかったことは、悔しい思いでいっぱいです。

 ただ、リーグ全体では昨年同様、6名のNPB選手を輩出することができました。リーグに携わる者として、これは素直に喜びたいと思います。今年はオリックスから指名を受けた西川雅人(愛媛)、福岡ソフトバンクが獲得したキム・ムヨン(福岡)、育成選手枠の丈武や塚本浩二、堂上隼人(いずれも香川)と、ほぼリーグでトップレベルの成績を残したメンバーがNPB入りを決めました。

 これまでの3年間のドラフトを振り返ると、どちらかというと成績より将来性を見込まれた選手がリーグからは多く指名されていたように感じます。しかし、今年は違いました。素質のみならず、安定した成績を残したことが、アピールポイントになったのです。アイランドリーグで結果を残した選手は使える。リーグのレベルをNPBが評価してくれたドラフトだったと言えるのではないでしょうか。

 相手ベンチから見ていて、今年になって変わったと感じたのは塚本(東京ヤクルト育成2巡目)です。アンダーハンドの彼はストレートのスピードは120キロ台。コントロールの良さが身上のピッチャーでした。昨年まではアウトローに直球と変化球を集めるピッチングが目立っていました。

 ところが、今年はインコースを積極的に突くようになったのです。インコースに思い切ってストレートを投げ込むだけでなく、同じところからスライダーを曲げてくる。この攻めに徳島のバッターはかなり苦しめられました。たとえスピードがなくても、ボールは下から浮き上がってきますから、胸元を突かれると打ちにくいものです。さらにインコースをどんどん投げられると、アウトコースへ踏み込みづらくなります。塚本にとってはピッチングの幅が広がった1年だったのではないでしょうか。

 この変化は、同じく育成指名を受けた堂上隼人(福岡ソフトバンク5巡目)のリードによる面も大きいはずです。堂上は投手の特徴や状態をみて、リードできるキャッチャー。バッターの弱点も徹底的に突いてきます。このリーグには制球が定まらなかったり、球威がなかったりと、完璧なピッチャーはいませんが、現時点での能力を最大限生かしていました。このインサイドワークだけでも素晴らしいのに、強肩かつ強打。他の5球団は彼にかなり苦労させられました。

 堂上とともに香川の中軸を荷った丈武(東北楽天育成1巡目)もリーグ内では規格外のバッターでした。遠くへ飛ばす力はナンバーワン。自分のセールスポイントを生かすために、常にホームランにこだわっていた姿も印象的でした。そして、そのためのトレーニングも欠かさない男でした。

 今季の丈武が変わったところは守備に対する意識です。昨年までサードやファーストを守っていたせいか、打球を待って捕るシーンが目立ちました。もちろん打球の速いサードや、一塁につかなくてはいけないファーストでは、待っていても守備は無難にこなせるでしょう。しかし、ワンランク上を目指すには、守りでも攻めの姿勢が必要です。

 丈武は今年から本格的にショートを守るようになりました。何よりショートは打球に対する一歩目の反応が求められるポジションです。対戦相手として見ていると、試合を経るごとに彼が前へ出てボールをさばく場面が増えてきました。まだまだショートとしては経験不足とはいえ、守備は鍛えればうまくなります。守備の意識改革をする上で、ショートコンバートは正解だったと言えるでしょう。

 1年でリーグを巣立つ西川とキムも、速球の勢いでは今季、1、2を争うピッチャーでした。ボールがただ速いだけの人間ならアイランドリーグでもそこそこいます。しかし、2人には制球力の高さ、変化球のキレがありました。彼らがクローザーだった愛媛、福岡と対戦する時は、8回までが勝負。ドラフト指名にふさわしい結果と内容を1年間、みせていました。

 そして、今回唯一、本当の育成扱いでNPBの門を叩くのが香川の生山裕人(千葉ロッテ育成4巡目)。彼の良さは何といっても足の速さです。いつの試合だったか、一塁線を抜けた緩いゴロのヒットで、一気に2塁を回って3塁を陥れ、そのスピードにビックリしたことがありました。年々、力をつけていましたから、来年はブレイクするのではと感じていた矢先の指名です。

 彼がもうひとつ素晴らしかったのは一塁への全力疾走を怠らなかったこと。スカウトが見ているのは数字だけではありません。数字以上のインパクトをいかに残すか。これは来季、指名を狙う選手たち全員に共通する課題でしょう。

 アイランドリーグを卒業してNPBに羽ばたいた選手たちは4年間で17名となりました。しかし、まだ1軍に定着した選手は誰もいません。今回は6名中4人が育成とはいえ、1年目から戦力として期待が持てるプレーヤーが指名を受けています。アイランドリーグ出身選手たちが来季こそ1軍で活躍し、四国と九州を盛り上げてくれることを楽しみにしています。


森山一人(もりやま・かずと)プロフィール>: 徳島インディゴソックス監督代行
 1973年12月19日、島根県出身。現役時代は右投右打の外野手。邇摩高より91年のドラフト6位で近鉄に入団。俊足強肩を持ち味としていたが、1軍出場の機会がなく、00年にはダイエーへ。同年10月のオリックス戦で放ったプロ初安打が初本塁打となる。02年限りで現役引退。アイランドリーグが誕生した05年から高知のコーチを務め、指導した角中勝也や白川大輔(いずれも千葉ロッテ)らがNPB入りを果たす。今季から徳島へ移籍。白石監督の辞任を受け、8月より監督代行に就任。




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