「国体」という響きに皆さんは何を感じるのだろうか?
 中学生から競技スポーツ一辺倒だった私にとって「国体」という響きは「憧れ」であり、「目標」であった。インターハイ、国体に出ることは選手としての大きなステイタスであった訳だ。
 しかし、運動と無縁な人にとってはどうだろう? 「そんなのがあるなぁ」程度で、あまり興味がないのが正直なところだろう。たとえば、今年の国体が大分県で開かれ、参加総数は2万4千人だったことを知っている人はどの程度いるのだろうか。残念ながら「国民の体育大会」と言いながらも、大多数の国民の理解と興味は乏しく、難しい状況にあるのが現状だ。

 そもそも国体は戦後間もない1946年に国民の健康増進と体力向上、地方スポーツの振興と地方文化の発展などの目的で作られたもの。この目的に沿うために都道府県持ち回りで開催され、すでに一巡して、二巡目も20年目に達している。このように伝統ある競技会であるのだが、開催地の費用負担や、人的負担も大きく開催自治体は疲弊している状態。近年は自治体が開催に対して及び腰になってきている。それを受けて日本体育協会は「国体改革プロジェクト」を進め、参加人員削減や種目の再検討などを進めている。

 私が大会開催のためにある自治体を訪れたところ、「地域にボランティアを要請しない事が後援の条件」と念を押された事がある。実はその地域はたびたび国体の開催地になり、インターハイも含めると地域住民がボランティアに駆り出される頻度が高かったのだ。そのため、イベントに対しての住民感情が良くなかったというのが後ほど分かった。こんな話があるほど、受け入れる側は疲弊しているということなのだろう。

 確かに人数を絞り、開催地への負担を和らげるというのも一つのアイディアである。大会予算を絞り、経済的、人的負担を減らすことは大切だ。しかし、それだけでは薄れている国民の関心を取り戻すことはできないだろう。決して少なくない予算をかけている国体を今後なんのために開催していくのかを示す必要がある。

 今年の10月に決定した改革案では「国内最大・最高レベルの総合競技大会」として、「国内トップクラスの競技者による国際的に通用する競技力向上の一翼を担う」ことが強調されていた。つまり競技性を高めて、世界につながる競技会をということらしい。そのおかげで我らが「トライアスロン」が実施種目に入った。だから、あまりネガティブなことは言いたくないが、本当にそれでいいのだろうか?

 関心が薄れてきている原因として、ウォッチスポーツとしては成り立たなくなったというのがあげられる。今は多くのプロスポーツが国内外にある。特に海外の刺激的なプレーを見せるプロの技がライブで見られる時代になったので、愛好者も含めて国内のスポーツには興味が薄れてきたというところがあるだろう。

 しかし、だからといって今から国体がトップスポーツ競技会を目指して成功するのか? プロ野球やJリーグでも、この問題に対しての解決点を模索しているというのに、国体が後から追ってもかなうとは思えない。また、各競技の国内頂点の大会は「日本選手権」という形で競技団体ごとに開催されている。これをもうひとつ無理やり作る必要があるのだろうか。ややもするとお互いでお互いを潰し合うことにもなりえない。

 この議論をすると、かならず「廃止論」が出てくる。確かにこの状態で多額の予算を使い、開催地に負担をかけながら開催し続ける必要があるのか? 役目を終えたのなら終了してもいいのではないか、と思うこともある。でも、無くすことはいつでもできる。いっそのこと思い切った方向転換をしてみてはどうだろう。

 たとえば、スポーツ普及の大会としてレベルを落とした一般参加型にするとか、教室を併設した体験型にするなど斬新なアイディアを考えてもいいと思う。ウォッチスポーツはプロスポーツが引き受け、国内競技会の頂点として世界への道筋をつける大会は各競技団体の日本選手権が担うとするなら、国体は別の存在であってもいいのではないだろうか。今、挙げたのはほんの一例ではあるが、このような既存にとらわれない発想で新しい国民体育大会を考えたほうがいい。競技会がすべて同じ方向に向かうのではなく、独自の路線を見出すことが生き残る道だと思うのだが……。

「国民体育大会」改め、「国民大運動会」なんて楽しそうに思えるのは私だけであろうか? 
 もっと多くの議論を望みたいところである。

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白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。
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