12月のハワイといえば、ホノルルマラソン。すでに36回目を迎える本大会は毎年多くの日本人参加者を集める大会として知られている。1995年のピーク時には、3万5千人を超える全体参加者があり、日本人は2万人を超えていた。昨年の全体参加者は2万7千人で、日本人は1万9千人。人数は若干減ったものの、近年のマラソンブームの影響からか、根強い人気を証明する結果となっていた。ところが今年は日本人が約5千人減の1万4千人。日本人参加者が確実に減少していることを印象付けた。マラソンブームにも陰りがみられるのか……!?
(写真:小雨の降る中のスタート)
 ツアーのお仕事で毎年のように本大会に参加していて、今年、驚いたのはスタートがスムーズだったこと。昨年まではスタートの号砲から最終ランナーがスタートラインを越えるまではおおよそ30分近くかかっていた。最終ランナーとスタートするのが恒例になっていた私は、スタートの号砲を聞いてからトイレに行って、準備をして、皆を送りだして……と余裕をもっていたのだが、今年はスタートを見送り、トイレに行ったらすぐに最終ランナーのスタートだった。
(写真:スタート時の花火)

 時計を見ると20分も経過していない。うーん、全体参加者が5千人も減るとこんなものなのか〜と感心。そういえば、前日まで受付を行うコンベンションセンターの混み具合も、昨年に比べてずいぶんスムーズ。きっとこの大会にはこのくらいの人数が適切なのかも知れないと勝手に納得していた。
(写真:人数は減ったとはいえ、2万人を超えるスタートは壮観)

 一方で国内のマラソン事情は盛り上がっている。東京マラソンはもちろんだが、那覇や長野といった人気大会はすぐに定員いっぱい。他の大会もおおむね募集は好評なようだ。ここ数年、国内で走っている人の数は、増えることはあっても減ることはないというのが共通した見解。夜の皇居の盛況ぶりをみていると、それは間違いないだろう。なのにホノルルには何が起こったのか。

 その大きな理由は2つあると私は分析している。
 まず一つは急激な原油高騰で、燃油サーチャージが高い設定時期になってしまったこと。これにより、通常12〜14万程度のマラソンツアーが16〜18万くらいになってしまった。何もサービスが変わらないのに4万円の上乗せは、消費者には厳しい。まして100万円の買い物ならともかく、10万そこそこの価格に4万円が乗るものだからその割高感は相当だろう。消費者心理が冷えるのも無理はない。
(写真:前半は雨の中の大会)

 そしてもう一つの大きな理由は、ホノルルマラソン以外にも楽しいマラソンが国内で増えたということにある。過去、国内のマラソンはまじめな大会が多く、「マラソン競技会」がほとんどであった。厳しい制限時間のエリート大会はもちろんだが、一般の大会でさえ「楽しい」という雰囲気には程遠く、ブレザーを着た役員の方々がきちっと仕切っているのが印象的。仮装なんてもちろん禁止されていた。私がとある大会にMCとして行った時に、音楽を流し、ちょっとした演出をしたら、「いやー、音楽があるのもいいですね〜」と感心され、驚いたのは僅か数年前の話だ。

 それに比べてホノルルは制限時間なし、何でもありのゆるゆる大会。ハワイの気候や雰囲気もあって、非常にお祭り的な楽しい雰囲気に満ちている。参加者が集まったのも当然だろう。ところが、そんな海外マラソンを経験してきた人が国内に増えて、「楽しいマラソンイベント」の有用性に気付きだした。そしてそのような大会が生まれだし、国内でも「競技会」ではない、「マラソンイベント」が急増した。すると参加者もホノルルでなくともその雰囲気が味わえることに気づきだし……。国内の大会が活況なのに、ホノルルの参加者数が落ちるという結果につながった訳だ。
(写真:後半は太陽が覗きだした)

 もちろんこれ以外にも、昨年の計測トラブルや悪天候、また航空会社の席の配分読みが上手くいかなかったというような要因もある。だが、大きくは上記の2点が日本人参加者減少の理由となっているものと考えられる。

 この結果は大会事務局や関係者としては歓迎すべきことではなく、来年に向けて巻き返しを図りたいことだろう。幸い原油価格も落ち着いていて、航空運賃も通常に戻りそうだ。しかし、後者の理由は変わることはない。日本国内のマラソン市場も新しい時代に入ったということだろう。関係者にはある程度の覚悟が必要だ。

 しかし参加者として見た場合、今年の人数は快適だ。受付、スタートなどであまりストレスを感じることがなかったのは事実。あまりに少ないとさみしくて盛り上がらないが、このくらいでいてくれたほうが快適に走れるのかもしれない。
(写真:やはりここをくぐる瞬間は最高だ)

 1973年に167名で始まった本大会。まさかその当時はこんな人数になるとは思ってもみなかっただろう。大きくなってしまったらそれなりの問題もある訳で……。今から来年の参加者数が気になるところだ。

 まあ、いずれにしても、素晴らしいロケーションで走ることができる気持ちのいい大会であることは間違いない。これからもホノルルマラソンは多くの人を幸せにしてくれることだろう。

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白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。
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