近年はニューヨークのMLBチームに冴えがみられないが、代わりに(?)NFLの2チームが隆盛のときを迎えている。
 今季はこの街に本拠を置くジャイアンツとジェッツがともに好調なプレーを継続。どちらも地区首位を堅守し、それぞれプレーオフ進出を濃厚なものとしている。そしてこのまま両チームが勝ち進み、来年2月、米スポーツ最高の檜舞台スーパーボウルで雌雄を決することになるかもしれない……。
(写真:ジェッツ、ジャイアンツともにファンの熱狂度はシーズンが進むに連れて増している)
 現時点での2チームの戦いぶりを見る限り、そんな驚異のストーリーも決して夢物語とはいえない。
 昨季は第5シードでどうにかプレーオフに進出したジャイアンツは、そこから奇跡的な快進撃でスーパーボウルを制覇。史上稀に見る痛快な勝利に地元ファンは酔いしれたが、一方で「タイミング良く1カ月間好調の波に乗っただけ」と陰口を叩くものが多かったのも事実である。
 しかし、彼らの力は本物だった。今季は12試合を終えた時点で11勝1敗。昨季の“栄光の二日酔い”など微塵も感じさせず、圧倒的な強さでリーグベストレコードを保っている。

 スーパーボウルMVPで自信を付けたエースQBのイーライ・マニングは一段と逞しくなった姿を披露。通称「アース・ウィンド&ファイヤー」と呼ばれる3人の高レベルなRB(ブランドン・ジェイコブス、デリック・ウォード、アーマド・ブラッドショー)を擁したラン攻撃も強力だ。それらの主役以外もチーム全体にスキはまったく見られない。
(写真:王者ジャイアンツは群を抜いた強さを見せつけている)

 しかし、昨季の覇者ということで今季は毎週のように強豪との対戦を余儀なくされている(1シーズン16戦のみのNFLはチームごとに日程に偏りが見られる)。さらについ先日、主力の1人であるWRプラキシコ・バレスが拳銃不法所持で摘発されるなど、フィールド外のトラブルも少なくない。

 だがそんなタフな状況をものともせずに、ジャイアンツの破竹の進撃は続いている。毎試合異なったスタイルで、試合ごとにニューヒーローが飛び出して勝利を掴む姿は、観ているものに底知れぬ強さを感じさせる。
 昨プレーオフまで遡って数えれば16戦で15勝。これだけ勝ち続ければ誰も文句はなく、現代最強チームの名を確固たるものにしたと言って良い。

 一方、クロスタウン・ライバルのジェッツも8勝4敗でAFC東地区首位を快走中だ。昨オフに伝説的QBブレット・ファーブを新エースに迎え入れながら、開幕から3勝3敗と煮え切らないスタート。しかしこのファーブと同僚たちの間にケミストリーが芽生え始めるとともに、ジェッツは急上昇を始めた。
 ジャイアンツほどの層の厚さはないが、役者は適所に揃っている。RBトーマス・ジョーンズ、WRラバーニアス・コールズ、ジェリコ・コッチェリー、CBダレル・リーヴィス、FSケリー・ローズらはすべてプロボウル(NFLのオールスター)候補。これらの主力たちが力を発揮し始めた第8週以降は5連勝を飾り、一気に注目チームの仲間入りを果たした。
 特に11月13日にはペイトリオッツをオーバータイムの激闘の末に下し、長年苦渋を味わわされてきた宿敵に一矢を報いた。そしてその翌週にはそれまで10連勝(無敗)だったタイタンズを21点の大差をつけて撃破。強豪相手の2試合を勝ち抜いたことで、ジェッツはリーグ全体に強烈なステートメントを発したのである。
(写真:ジェッツの躍進は今季リーグ最大の見どころの1つとなっている)

 こうして今季12週目が終わった時点で「スポーツイラストレイテッド」誌のパワーランキングでは、ジャイアンツが1位、ジェッツが2位。「ESPN.COM」ではジャイアンツ1位、ジェッツは3位。同市内のチームがこれだけ高く評価されれば、その両者の最終決戦を望む声が出るのは当然である。
 特に米最大のスポーツイベントと呼ばれるスーパーボウルにおいて、「サブウェイ・スーパーボウル」は一度も実現していない。43年目にしてそれがなし得れば、2000年の「サブウェイ・ワールドシリーズ」(ヤンキース対メッツ)を遥かに凌駕する注目が集まるのは必至だ。

 もちろん現時点で両軍が好調とはいえ、まだまだ乗り越えねばならない壁は多い。レギュラーシーズンの勝敗などプレーオフでは大きな意味をなさないことは、なにより昨季のジャイアンツが証明したばかり。カウボーイズ、スティーラーズといった伝統の強豪もシーズンが進むにつれて体勢を整えており、今後は予断を許さない戦いが続くに違いない。
 
 だだ少なくとも主役と脇役が噛み合った今季のジャイアンツとジェッツは、上位進出を期待させるに十分なパフォーマンスを披露し続けている。
 ファーブ、マニングと大舞台での実績がある選手が肝心要のQBを務めている点も大きい。このまま両者が揃って勝ち進んだとしても、誰も驚くべきではないことだけは確かだろう。
(写真:イーライ・マニングの落ち着いた司令塔振りもジャイアンツの強みだ)

 スーパーボウルは「天衣無縫のイベント」であるとよく言われる。そしてそのゲームが地元の2チーム間で争われるとしたら、期間中の街はいったいどんな雰囲気となるのだろうか(スーパーボウルは温暖な中立地での開催となるため、試合自体がニューヨークで行なわれるわけではない)。
 特にスーパーボウルはカード決定から試合当日まで約2週間の準備期間が設けられ、前景気が煽られることになる。その間に尋常ではないお祭り騒ぎが続くことは想像に難くない。さらにいえば、今季スーパーボウルのハーフタイム・ショウには、ニューヨークエリア出身のブルース・スプリングスティーンがパフォーマンスを行なうことがすでに決まっているのだという……。
 今春はニューヨークに住むすべてのスポーツファンにとって、忘れられない季節となる可能性がある。想像するだけで震えがくるようなストーリー。そんなおとぎ話が実現するとしたら、それは世界の首都・ニューヨークをおいて他には考えられないのではないか。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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