関西のスポーツ紙は勝とうが負けようが、雨が降ろうが雪が降ろうが、一面は阪神ネタと相場が決まっている。
 と言えば少々オーバーかもしれないが、少なくとも東京のスポーツ紙が一面に巨人ネタを持ってくる割合と比較すると、これはもう倍以上の差があるのではないか。

 関西におけるストーブリーグの主役は横浜からFA宣言した三浦大輔だった。奈良出身で、本人もタイガースファンだったこともあり、球団は猛アタックをかけた。
 しかし周知のように三浦は横浜残留の道を選んだ。悩み抜いた末に、横浜に骨を埋めることを決めたようだ。
「高校時代(奈良・高田商)も打倒天理や打倒智弁学園で甲子園に出たいと思っていた。(横浜は)今年優勝から一番位置だった。三浦大輔の原点に戻ってもう一度強いチームとやって勝ちたい」
 よくぞ言った。それでこそ“ハマの番長”だ。
 横浜は今季48勝94敗2分で5位ヤクルトに19ゲーム差を付けられるブッチ切りの最下位。その横浜からエースが抜ければどうなるか。来季も最下位脱出は容易ではあるまい。
 三浦の残留決定を受け、大矢明彦監督は「本当にありがたい。(阪神と)五分五分だと聞いていたからね。チーム状況とかいろいろ考えてくれたのかもしれない」とホッとした表情で語っていた。

 一方の阪神は大魚を逃してしまった。というのも三浦は阪神に滅法強く、これまでの通算対戦成績は37勝15敗。名うての“虎ハンター”だ。FAを利用して“生け捕り”にしようと試みたが、スルリと網から逃げられてしまった。
 一部に球団フロントの詰めの甘さを指摘する声もあるが、条件面においても誠意においても球団に落ち度はなかったように思われる。
 これは三浦本人も語っているように、横浜ファンの存在が大きかったのではないか。こんな状態の今、チームを去るわけにはいかないと三浦は判断したのだろう。
 三浦は筋を通す男である。聞く耳は持っているが、周囲の声には惑わされない。それは彼の自己主張とも言えるリーゼントヘアにはっきりと表れている。

 昔からエルビス・プレスリーが大好きだった。高校時代はボウズ頭。卒業したら、髪型はリーゼントと決めていた。それ以来、リーゼント一筋。
 一時、球界でも茶髪が大流行した。
「あれって、どう?」
 正反対の髪型の三浦に聞いたことがある。
 返ってきたセリフはこうだった。
「僕は他の人と一緒というのが好きじゃないんです。まわりが茶髪だから自分も茶髪に、なんていうのは理解できない。もしまわりが皆リーゼントにしたら、僕だけはやめると思いますね」
 それが三浦大輔である。横浜はこういう男を大事にした方がいい。

<この原稿は2008年12月21日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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