第208回 正面に弾かないGK小久保の凄み

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 パリ五輪のサッカー男子・U-23日本代表がグループリーグ3連勝でノックアウトステージ進出を決めました。日本女子代表(なでしこジャパン)は本日深夜に行なわれるナイジェリア代表戦の結果次第で、ノックアウトステージ進出が決定します。

 

 GLのMVPは小久保

 

 初戦のU-23パラグアイ代表戦で5対0、第2戦の同マリ代表戦と第3戦の同イスラエル代表戦は1対0の勝利。過去、GL3連勝かつ無失点でノックアウトステージへ進出した全チームがメダルを手にしています(92年バルセロナ五輪でのスペイン代表の金メダル、04年アテネ五輪でのアルゼンチン代表の金メダル、08年北京五輪でのブラジル代表の銅メダル)。

 

 3試合クリーンシートに多大な貢献をしているのが守護神の小久保玲央ブライアン(シントトロイデン)です。2戦目と3戦目に勝利できたのは、彼のおかげ。1対1の場面でのセーブや正面からのシュートをことごとく弾きました。

 

 マリ戦のセーブには痺れた人も多いのではないでしょうか。後半18分、まだスコアは0対0の場面。ペナルティーエリアほぼ正面の位置からFWティエモコ・ディアラに強烈な左足のシュートを放たれます。これを小久保は左に横っ飛びし、左手一本で弾き出しました。これが決まっていたら、その後の試合展開はまだまだ分からなかったように思います。

 

 日本が1対0とリードで迎えた試合終了間際、PKの大ピンチを迎えました。相手のキッカーのシュートはゴール左に逸れ、事なきを得ましたが、この時も小久保はしっかりとコースを読み切り、反応していました。仮にシュートが枠内にとんでいても守護神の守備範囲内でした。

 

 エリア内の状況を冷静に把握

 

 イスラエル戦でも小久保のファインセーブに救われました。その数なんと5回。特に、後半35分と36分のシーンは肝を冷やしました。35分はFWリエル・アバタ、36分はFWドル・テルグマンが強烈なシュートを枠内に飛ばしてきますが、これらも小久保の右手が日本を助けました。この2つのシーン、相手アタッカーが続々とペナルティーエリア内に詰めてきましたが、ボールは選手がいないスペースに転がりました。

 

 僕はここに小久保の冷静さと強さを感じます。あれだけシュートを弾く場面があっても、相手に押し込まれないのは、打たれる前にペナルティーエリア内にいる相手と味方の位置を確認している証拠です。さらに正面に弾かず、なるべく横方向に、それも遠くに弾いています。正面に弾くとシュートを打った選手に再度押し込まれる確率が高くなりますから。彼はボールに対して角度をつけて腕を出し、横に弾くことで失点リスクを回避しています。

 

 さらに指先ぎりぎりで触るのではなく、手のひら、もしくは親指の付け根あたりの力が入るところでセーブし、飛距離を出しています。指先ぎりぎりでのセーブが少ないのは、抜群の反射神経を持っているからこそでしょう。

 

 日本は8月2日深夜(日本時間)、ノックアウトステージ準々決勝でU-23スペイン代表と対戦します。日本の粘り強い守備を見ていると、勝利の可能性を感じます。スペインはレベルは高いですが、やってくることは見当がつきます。苦しい試合展開になることは必至ですが、小久保を中心とした今の日本の守備網ならば期待が持てます。ぜひ、頑張ってほしい。

 

 19歳・谷川の積極性

 

 なでしこジャパンは初戦のスペイン代表こそ1対2と落としましたが、2戦目のブラジル代表には劇的な勝利を収めました。

 

 途中出場した19歳のMF谷川萌々子がロングループシュートを決めたり、同点弾のPKを誘発するなど、大活躍を演じました。あの位置からよく狙いました。ボランチの位置から積極的に前に出ていく姿勢がなでしこに流れを呼び込みました。

 

 これまで、池田ジャパンのダブルボランチはMF長谷川唯と長野風花のコンビがお決まりでした。ところが、彼女がこの大舞台でも臆することなくプレーできるとわかれば、池田太監督の考えの幅は広がったでしょう。ブラジル戦は、長谷川がボランチから一列上がり、彼女がボランチに入りました。エースの長谷川が1.5列目のポジションに移ったことで相手の警戒度は上がりました。それがゆえに、谷川の3列目からの飛び出しが、より相手にダメージを与えたともいえるでしょう。この組み合わせは、長い目で見ても、とても有効に感じました。

 

 なでしこジャパンは、本日深夜にグループリーグ第3戦目のナイジェリア代表戦を迎えます。この一戦にノックアウトステージ進出がかかっています。女子の場合は3位でも勝ち進めるチャンスが残っています。アグレッシブに攻める場面と冷静に対処する切り替えがカギを握ると言っていいでしょう。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。

 

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