第209回 融合は、焦るべきではない

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 日本サッカー協会は29日、2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選の中国戦とバーレーン戦のメンバー、27名を発表しました。パリ五輪組のメンバー入り、初選出の選手がいたこととともに、長谷部誠(現フランクフルトU-21コーチ)がコーチとして帯同することも話題となりました。

 

 長谷部は選手にとって良き兄貴分的存在になれるでしょう。協会としては、長谷部のこれから先の絵、未来像を見たい、と思わせる人事でもあります。フランクフルトでコーチとして経験を積み始めたことに加え、若いうちから“代表のコーチ”として経験を重ねてほしい。森保一監督の希望でかなった人事らしいですが、協会も大きな期待をしての選出だったと読み取れます。

 

 選手選考に話を移しましょう。パリ五輪組からはセンターバック・高井幸大(初選出、川崎フロンターレ)とセンターフォワード・細谷真大(柏レイソル)が選出されました。そして、右サイドバック・望月ヘンリー海輝(FC町田ゼルビア)がA代表に初めて選ばれました。

 

 細谷は初選出でありませんがパリ五輪組の2人には、これを機にもう1つ、2つ上のレベルの経験を積んでほしい。もしかしたら、出番は瞬間的なものかもしれませんが、トレーニングから刺激を感じ、A代表常連組と少しでもコミュニケーションを取り、連係を構築してほしいですね。

 

 オーバーエイジを使わなかったことで、センターラインの若い選手たちも五輪の舞台を経験できました。センターフォワードとセンターバックの選手がトップの代表に入ったことは個人的にはうれしく思います。ポジション争いの序列を崩すには、時間を要するかもしれない。しかし、このふたりには期待が高まりますし、そのほかのパリ五輪組のクラブでのアピールにも注目し続けたいものです。

 

 今回、パリ五輪チームから選出されたのは2人ですが、僕は妥当な数かなぁと感じています。融合を焦りすぎても、マイナスに走る恐れもあります。ほんの少しの歯車が狂ったことを引き金に、連係面が崩れるリスクも当然考えられます。仮に森保監督が多くの人数の五輪組を加えることを考えているとしても、急ぎすぎる融合は得策ではない、と僕は考えます。

 

 望月も楽しみな存在です。高さのあるサイドバックは貴重ですし、彼のスピードも魅力です。サイドで攻撃の起点になってくれることを期待したいですが、どれだけの時間、チャンスをもらえるかはまだ不透明です。

 

 これは少々前から思っていましたが、サッカーに限らず日本スポーツ界において、もうハーフの選手は珍しくないですね。とても良いことだと思います。時代の流れでもあるし、多様性を謳ういまの社会の流れともいえるでしょう。彼らは、日本代表か、もう一方の国籍の代表かを選択する時期が訪れます。そして、日本代表を選んでくれています。その分、覚悟が決まっている感があり、ピッチ上でも日の丸を背負い、頼もしい姿を披露してくれています。“代表入りして、オレはこうなりたいんだ”というビジョンがより、明確です。このあたりの姿勢を、周囲も学ぶべきなんじゃないかなと思うことがあります。そして、互いに互いを高め合えれば、理想的なんじゃないかなと、感じるこの頃です。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。

 

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