一年通して大混戦だったJリーグ2008シーズン。終盤に3連勝を収めた鹿島アントラーズが見事に連覇を果たしました。2シーズン続けての優勝は00、01年以来になりますね。昨年の優勝でつけた自信が戦いぶりに表れた印象があります。開幕当初は小笠原満男、本山雅志といった経験豊富な選手たちがきっちりと仕事をしました。そこに若い選手たちが勢いをつけ、混戦から抜け出しました。

 アントラーズの強さはどこにあるのでしょうか。それは、守備から攻撃への移行がスムーズで、攻めのスピードが速い点にあります。この流れを可能にしたのはFWマルキーニョスの働きです。21得点で得点王、ベストイレブン、そしてリーグMVPと個人タイトルを総ナメにする大活躍をみせました。シーズン後半になって得点シーンこそ減りましたが、鹿島は彼を使った得点パターンが確立されたことで安定した戦いができました。シーズンを通して連敗が1つもなかったのは立派の一言です。鹿島にとってはマルキーニョスさまさまの1年だったと言えますね。

 とはいえ、全てが順調とは言えないシーズンでした。小笠原の負傷という大きなアクシデントもありました。それでもクラブが失速することなく首位争いを演じることができたのは選手層が厚くなっている証拠でしょう。

 その中でもキープレーヤーとなったのがMF青木剛です。彼の攻守に渡る貢献は非常に大きかった。ボランチは相手の攻撃の芽を真っ先に摘むポジションです。チームの中でファーストディフェンスをする位置になります。少しでも相手の攻撃に対応が遅れれば、イエローカード覚悟のファウルで敵を止めなければならないこともあります。しかし青木は鋭い読みから先手を取った守備をするので、不要なファウルを犯すことなくボールを奪うことができました。今シーズン、彼は34試合全てでピッチに立っています。つまり累積警告での出場停止が1度もないのです。これは称賛すべきことですね。

<チームの浮沈を左右する監督、フロントのビジョン>

 アントラーズ以外では、名古屋グランパスの復活や大分トリニータの躍進などが目立ちました。一方で、かつての名門、東京ヴェルディは1シーズンでJ2へ逆戻りし、ジュビロ磐田も入れ替え戦に臨むほど低迷しました。今のJリーグは監督の方針が成績を左右する割合が大きくなっています。

 鹿島のオズワルド・オリベイラ監督は今年1年をみても、選手個々人の能力に対する理解度が飛躍的に高まっています。選手たちも監督の目指すサッカーを完全に理解している。名古屋でもストイコビッチ監督の意図がチームに十分浸透していました。これは大分のシャムスカ監督についても言えますね。ナビスコカップ制覇は今年のJリーグの大きなニュースの一つと言えるでしょう。

 彼らとは対照的だったのが東京V、磐田、ジェフユナイテッド千葉など下位に沈んだチームです。フロントの考える弱点と監督の考える弱点が整合していないように感じました。だから強化策が結果となって表れない。結果が伴わなければ監督は交代させられてしまいますから、長期ビジョンを持って立て直すことができなくなる。つまり負のスパイラルにはまり込んでしまっているのです。もともと力のあるクラブでも、フロントの方針、監督の采配が少しでも狂うと、深刻な事態に陥ることを認識させられたシーズンでした。

<世界に通じるJクラブの戦い方とは?>

 話は変わって先日まで行われていたクラブワールドカップ2008でのガンバ大阪の戦いぶりについて振り返りましょう。マンチェスター・ユナイテッドとの準決勝は結果こそ3−5でしたが、立ち上がりから相手に攻められ放題の試合でした。勝負強さという点ではまだまだ世界のビッグクラブとの距離は遠いですね。3点取ったことは大きな成果ですが、これは相手に5点があったからこそ取れた得点です。ガンバの3ゴールはマンチェスター・ユナイテッドの気の緩みからきたもの。その証拠に本気の戦いを挑んだ決勝戦ではマンUは南米王者を無失点に抑えていますよね。本気度が違っていました。個人的には0−5で完敗したほうがガンバにとってよかったのではないかと思います。

 おそらくガンバの西野朗監督、選手ともに満足のいく大会ではなかったはずです。今回の経験から自分たちが通用した部分とそうでなかった部分を洗い出して、今後の戦いにつなげていってほしいと思います。

 08年はガンバが制したアジアチャンピオンズリーグ(ACL)には、来年、鹿島、名古屋、川崎フロンターレ、そして天皇杯優勝クラブが出場することになっています。ACLとクラブワールドカップを見る限り、ヨーロッパスタイルでシンプルにパスを繋いでいくサッカーの方が結果を出しています。鹿島のようなポゼッションから力のあるFWにパスを通す戦い方は国内リーグでは通用しますが、国際舞台ではなかなか難しいようです。同じようなスタイルでクラブW杯に臨んだパチューカ(メキシコ)も大きな成果を上げることはできませんでした。国際大会で上位を狙うには、その時々で相応しい戦い方ができる柔軟性が必要になってくるのかもしれません。

<09年は遠藤、興梠に期待!>

 08年で最も印象に残った選手は日本代表でもガンバ大阪でもチームを牽引した遠藤保仁でした。代表では13試合に出場し、中村俊輔(セルティック)とともになくてはならない存在になっています。リーグ戦では27試合に出場して6ゴール、7アシスト。来年ヤマ場を迎える南アフリカW杯アジア最終予選での更なる活躍を期待したいです。

 09年に期待したい若手選手はFW興梠慎三(鹿島)です。クラブではマルキーニョスとともに大きなポイントゲッターとして優勝に貢献しました。彼はゴール前で斜めに走りながらボールを線で受けることができるようになってきています。パスの出し手となる遠藤、中村俊ともかみ合うタイプでしょう。今の出来ならば代表でもやっていけるはず。国際親善試合や最終予選で、持ち前のスピードと豊富な運動量を武器に相手ゴール前で決定的な仕事をするシーンを見てみたいですね。彼のようなFWは今の日本代表にはいないタイプです。興梠の台頭は鹿島だけでなく代表にとってもいいニュース。彼がこの先どのように成長するか、みなさんも注目してみてください。


● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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