アジアカップ予選の2試合を通じて、代表チームには共通の理解がなかったように見受けられました。海外組が合流せず若手主体で臨んだとはいえ、チームの完成度は低かった。岡田ジャパンは南アフリカへの勝負の年、不安の残るスタートを切ってしまいました。

 特に苦言を呈したいのは攻撃陣です。アジアでの戦いでは日本は相手に引かれてしまうことを回避できません。最終的には個人でゴール前の守備を突破しゴールを奪わなければいけないのです。ところがシュートチャンスを作るところまでは行くのですが、肝心のシュートが入らない。ボールを力いっぱい蹴っているだけのように感じられます。おそらくトレーニングの段階からシュートをする際に、色々なシチュエーションを考えていないからでしょう。

 これはチーム内での全体練習はもちろん、それ以外の個人練習中の意識の問題です。シュートはもっと考えて打たなくてはいけません。ゴール隅を狙って左右に外れてしまう、これはまだよいでしょう。しかし、自分の感覚だけでシュートを蹴って、ボールをふかしてしまうのは論外です。そのようなシュートを見かけると、後ろで守っているDFとしては、「何やったんだよ」という気持ちになります。フィニッシュの精度については、今の代表に限った問題ではなく、日本サッカー界の課題です。クラブや各選手単位でもっと危機感を持ってもらいたいですね。

 もう一つ気になったのは、メンバーの入れ替えが多かったとはいえ、選手たちがお互いを理解していないように見受けられたこと。今月10日から行われていた約2週間の合宿で、しっかりすり合わせはできていたのでしょうか。今回のように時間のない合宿で、選手が集まってフィジカルコンディションをあげていくのは効率が悪すぎます。代表合宿に呼ばれるのであれば、事前に自分の身体は仕上げておかなければいけません。選出された選手の体が出来ていないようであれば、その場で帰ってもらえばいいのです。そのくらいの厳しさが代表チームには必要でしょう。

 日本代表に選ばれるのは、1億人以上の中からたった数十名。さらに先発出場する者はその中で11人だけです。自分たちは選ばれている人間なんだ、という意識を高くもって代表戦に臨んでもらいたいですね。2月11日にはオーストラリアとの大一番が待っています。欧州組も加わるので、アジア杯予選のような戦いにならないとは思いますが、もう一度、気持ちを引き締めてがんばってほしいものです。

<代表とガンバ大阪の差>

 お互いの理解度が低くチームとして機能していない代表とは対照的に、自分たちのことを理解し、結果を残したのがガンバ大阪でした。

 元日に行われた天皇杯決勝はガンバが柏レイソルを延長戦で下し、2年連続でアジアチャンピオンズリーグ(ACL)出場権を獲得しました。12月上旬から1カ月で7試合を消化する過密日程の中、クラブの底力を見せる素晴らしい優勝でした。リーグ戦では8位と振るわなかったガンバですが、トーナメント方式の天皇杯を勝ち抜いたのには理由がありました。

 ACLの終盤あたりから12月に行われたクラブW杯にかけて、ガンバはこうすれば勝てるという方法をつかんだ印象があります。MF遠藤保仁や橋本英郎を中心に攻守に渡って、選手一人一人が自分たちの役割をよく理解していました。攻撃の組み立て方、守備でのプレスのかけ方でもチームがひとつの考え方になっていました。

 これは過密日程を戦っていく上でも非常に大切なことです。全員の意識が統一されているので、個々人に無駄な動きが少ない。無理なプレーもしなくなりますから、不必要なファールも減ります。結果的に出場停止になる選手、負傷者も少なくなり、固定メンバーで戦えます。そうなると、お互いの理解度はさらに増していく。強いチームは全てが好循環します。だから勝てるのです。

 さらにガンバには“試合を決定づける選手”がいたことも大きい。もちろんFW播戸竜二のことです。08年は得点を決めるシーンが少なかったですが、それ以外の動きでチームへの貢献度は大きかったでしょう。天皇杯決勝では残り少ない時間からピッチに送り出され、自分のやるべき仕事をきっちりと果たしました。経験豊富な播戸だからこそ、短い時間でも1点を挙げることができたのでしょう。

 彼のようなタイプのFWが試合の終盤に入ってくると、守っている側は非常にやりにくいんです。播戸は自分のアピールポイントを持っていますし、相手守備陣の嫌がるところも知っている。活きのいい選手が攻めのテンポを変えると、なかなかマークしづらいもの。柏は播戸のテンポについていくことができませんでした。西野朗監督の狙いがピタリと当たりましたね。

<大迫は焦らず、じっくりと育ってほしい>

 最後に、高校サッカー選手権で活躍した大迫勇也について触れましょう。彼はご存知の通り、6試合で10得点と非凡な才能を見せてくれました。抜群のボディーバランスとやわらかいボールタッチが彼のよさです。スペースを与えれば、鋭い動きで振り向きざまにシュートを打てる。18歳にしては素晴らしい動きをします。

 ただし、彼はまだ高校を卒業したばかり。体ができていませんから、まずはプロ仕様のトレーニングを施す必要があるでしょう。アントラーズに入団し、最初のうちは目新しさもあり、得点を挙げることができるかもしれません。しかし、このままではリーグ戦が進むにつれゴールを奪えずに苦しむことになるでしょう。Jリーグには百戦錬磨のDFがたくさんいます。彼らはボールの奪いどころを見つければ、とことんそこを突いてきます。柳沢も一時期、ボールを受けるところまで、前を向いてプレーできず苦しみました。自分の武器を磨くことも必要ですが、弱点の克服も同じくらい重要です。まだ18歳。才能はありますから2年くらいは苦しい経験をして、20代前半で芽が出てくればいい。個人的にはそう思っています。


● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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