昨年大晦日のさいたまスーパーアリーナは熱気に包まれていた。まさかの結果の連続にファンの興奮が収まらない。だが私は、武田幸三、バダ・ハリ、武蔵は、いま何を思うのか、と心配してしまった。会場に集まっていたのは、ほとんどが総合格闘技ファンだった。K-1選手たちがアウェイ的雰囲気を感じたことは確かだろう。それにしても、この結果はどういうことか?
〇川尻達也(KO、1R2分47秒)武田幸三●
〇アリスター・オーフレイム(KO、1R2分2秒)バダ・ハリ●
〇ゲガール・ムサシ(KO、1R2分32秒)武蔵●

 総合格闘技のルールで闘ったわけではない。すべてK-1(キックボクシング)ルールで行なわれたものだ。なのに、そのチャンピオンクラスの選手たちが、K-1ルールでの試合経験は皆無に等しい総合格闘家たちに惨敗を喫し続けたのである。

 屈辱を味わった3選手は今年、リベンジを果たすしかない。ただ、K-1のリングでの再戦を求めるのでは芸がないし、虫が良過ぎるだろう。自らの土俵に乗り込んできた相手に負けたのである。ならば今度は自分が総合格闘技の舞台へ飛び込んで仕返しをするべきではないか。3人の中で、その勇気を持つ真の格闘家は誰なのかを今年は見極めたいと思う。

 ただ、バダ・ハリが何故、大晦日のリングに立っていたのかという疑問は残る。12月6日、横浜アリーナでの『K-1ワールドGP』決勝戦で彼がレミー・ボンヤスキーに対して行なった悪質な反則行為は決して許されるものではない。一定の期間、出場停止処分とするべきではなかったか。

「そのような罰則がルールブックに記されていないから」と主催者は言うが、ならば、秋山成勲がカラダにオイルを塗って試合を行なった際に下した処分は何だったのだろうか。あの時の処分は妥当ではあったが(あまりに早い復帰には納得がいかないが)、ルールブックに「カラダにオイルを塗って試合に出たら無期限試合出場停止」と記されていたのだろうか。主催者側の都合で処分の軽重が決まるというのでは到底、納得できない。そもそもニュートラルな裁定を下すためにも不可欠なコミッションを設置できていないことに、問題はあるのだが……。

 最後に田村潔司×桜庭和志戦を観終えて、やはり「実現が遅すぎた」との感を強く持った。会場内に緊迫感は漂った。しかし、それ以上に桜庭の動きが全盛期には程遠かったことが印象として残る。4年前、いや、それ以前に実現させてこそ価値のあるカードだった。いくらネームバリューのある選手同士の闘いであっても、それは“旬”に観るからこそ好カードなのであり、“旬”を過ぎたならば、むしろ組むべきではない。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜(文春文庫PLUS)』ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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