11日の南アW杯アジア最終予選オーストラリア戦は日本にとって必ず勝たなければいけない試合でした。みなさんご存知の通り、結果は0−0の引き分け。岡田ジャパンはホームで勝ち点3を手にすることはできませんでした。

 オーストラリア戦を振り返って、問題を挙げるならば「点が入らなかったこと」に尽きます。シュート数はオーストラリアの3本に対して、日本は11本。ボール支配率でも日本は62%と相手を圧倒しました。しかしながら、1点も取ることができませんでした。

 圧倒的にボールを持ちながら、数多くのシュートを打ちながら、なぜ決定機を作ることができないのか。それは攻撃陣のラストパスの精度に問題がありました。ゴール前に送ったクロスボールでもスルーパスでも、オーストラリアDFを完全に崩した場面はほとんどありませんでした。

 後半34分にFW玉田圭司(名古屋)のヘディングシュートがゴールバーの上に外れたシーンを思い出してみてください。彼がゴール前に入るタイミングは素晴らしかった。クロスを挙げたDF長友佑都(F東京)の攻め上がりもよかった。しかし、長友の左足から放たれたクロスボールの精度が低かった。クロス以外は完璧な動きをしていたんです。それだけにクロスボールの質の低さが惜しかった。日本の攻撃を見ていると、このような場面がとても多いように感じます。決定力不足はFWだけの問題ではありません。いかにゴールに繋がるボールを供給できるか、ここを追求していかなければいけませんね。

<想定の範囲内だった日本の攻撃陣>

 少し見方を変えて、オーストラリアDFから見た日本代表の攻撃について考えてみましょう。私がオーストラリアのセンターバックに入るとしたら、まず気をつけるのは2トップの玉田と田中達也(浦和)のディフェンスライン裏への飛び出しです。オーストラリアDFたちは2人の動きを研究し、しっかりと対策を練っていました。ある程度2人に走りこまれることはしょうがない。自由に動かさせた上で、ゴール前に入ってくる低いクロス、足元へのボールに集中して対処しようという意図を持っていました。

 日本の攻めでもっとも可能性を感じさせたのは前半5分、右サイドに開いた田中達がニアサイドに入れたクロスからの攻撃でしょう。玉田のシュートは惜しくもゴール右に逸れましたが、オーストラリアDFは肝を冷やしたことでしょう。ただ、試合序盤に日本がいきなり手の内をみせてくれたことは、彼らにとって幸運でした。オーストラリアは高さに絶対の自信を持っていますから、このプレーで「今日の試合はラインの裏と足元だけを気をつけよう」という確認ができました。そこから彼らは90分間、自分たちのゴールネットを揺らすことを許さなかった。オーストラリアにとっては、勝ちに等しいドローです。彼らにとっては、なんの不満もない結果でしょう。

<試合の中でペースの変化を>

 岡田ジャパンで気になった点がもう一つあります。それは、残り時間が少なくなった後半30分過ぎから、戦い方を変えられなかったことです。岡田武史監督をはじめ、選手たちには、ホームで勝ち点3を取りたいとの共通認識はあったはず。ベンチからも点を獲りにいくよう指示は出ていたでしょう。しかし、選手にはリスクを負った攻撃がなかなかできませんでした。多くの人数をかけて日本が全体を押し上げたのは後半41分、右サイド内田篤人(鹿島)のクロスに対しゴール前へ上がった長谷部誠(ヴォルフスブルク)があわせたシーン一度きりでした。もう少しチーム全体でゴールに攻め立てるシーンを見たかったですね。

 岡田監督の目指すサッカーを選手たちは表現できています。その上で世界と戦っていくためには、勝ちを狙う戦い方が必要です。岡田ジャパンはまだまだその点で物足りません。具体的にいえば、両サイドバックの内田、長友はもっと攻撃の回数を増やしてもよかったでしょう。オーストラリアの攻撃のスタイルはワントップの選手を狙ったロングボールからのカウンターしかなかったため、センターバックの中澤佑二(横浜FM)、田中マルクス闘莉王(浦和)の2枚で十分に対応できていました。ですから、両サイドの2人はもっと中盤の選手を追い抜いて、攻撃に参加してもよかったと思います。

 サッカーは勝つことでしか自分たちに自信はつきません。オーストラリア戦は日本にとって勝ち点3を奪い、チームを一段階、上のステップに上げるチャンスでした。しかし、結果を出すことは叶いませんでした。選手や監督、サポーターも含め、今回の引き分けを楽観視する声が多いですね。しかし、今回勝ちきれなかったことで、最終予選A組は混戦も考えられます。3月下旬に行われるホームでのバーレーン戦は必ず勝ち点3を取らなければいけない試合になりました。いまだアジア最終予選のホームゲームで勝ちのない岡田ジャパンにとって予想以上に厳しい戦いになるかもしれません。“2度あることは3度ある”とも言います。現在最下位のウズベキスタンにもホームで引き分けているわけですから、全くもって楽観はできません。日本代表には勝ちにこだわって戦ってほしい。心からそう願っています。


● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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