第2回「I made my day」
「フランスから日本に持って帰ってきたかったものは何?」と聞かれたら、私はいつもこう答える。
マルシェ!と。
リヨンにいた頃、日曜日の朝、よく近所の教会のミサに出かけていた。私はクリスチャンではないのだけれど、その土地に根付いている祈りの空間に惹かれて、気がついたら、よく足を運んでいた。
ミサが終わると、教会の扉がパァッと開いて、外の光が一気に流れ込んでくる。あの光景が、たまらなく好きだった。
教会を出ると、目の前にはマルシェが広がっている。新鮮な野菜や果物から、香ばしいパン、チーズ、惣菜やスイーツまで生き生きと並んでいて、その光景を見るだけで、なんだか心が満たされていくような気がした。
教会に通ううちに、私の顔を覚えて声をかけてくれるようになった、一人のおばあちゃんがいた。80代くらいだろうか。毎週、何気ない日常の話をしてくれては、少女のように笑う可愛らしい方だった。
ある日、ミサの後、マルシェでおばあちゃんに再会すると、その手元にはマルシェで買った小さな花束があった。この後、誰かに会うのだろうか?パーティーでも行くのだろうか?
すると、おばあちゃんは、少女のように微笑んで、こう教えてくれた。「これは、自分へのプレゼントなのよ」と。
誰かに幸せな気持ちを与えてもらったとき、英語で“You made my day”(「君のおかげで良い一日になった」)と相手に感謝する表現があるが、嬉しそうに花束を抱えるおばあちゃんを見て感じたのは、“I made my day”ということだった。そんな表現はないのだろうけれど。自分に花束を贈り、「自分のおかげで」良い一日にすること。
おばあちゃんを通してマルシェを改めて見回してみると、私も自分に何かを贈りたくなってくるのだった。
(この項おわり)
<今宮ライカ(いまみや・らいか)プロフィール>
日本語学校教師。国際基督教大学卒。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院修士課程修了。趣味は世界の絵本作家動向調査。